娘を誘拐犯に連れ去られ、犯人に翻弄されているうちに、人格が破壊
されてしまった牧師の男。
と、いうようにDVDの説明、及び映画のタイトルからイメージした。
実際はというと、こちらでイメージしたほどには、人格は破壊されてい
ない。理解できる範囲での、父親としての行動だからだ。
破壊というからには、もっと強烈な行動が表に出てきていいはずだ。
むしろ、母親のほうが別の意味で破壊されてしまったといえる。
娘は、犯人に利用されている。笑顔を強いられ、他の娘を安心させ
車の中に連れ込む道具として利用されている。それを娘自身が、
自分も殺しに加担していることを苦しんでいる様子がみられる。
だから、いくら最後には犯人から解放されようとも、『彼女自身の
心の中には罪の意識が消えないであろう。』と、いうようなところまで
を映画では描いてほしかった。
ところで、娘はたえず口のなかをもぐもぐ動かして、何かを食べている
様子がみられる。
その口のなかに入っているものが何なのかが気になった。そこも、
想像した場合の気持ち悪さと、もっとうまく結びつけてくれたら、さらに
インパクトが強くなったのではないか。
途中、アリが入っている砂糖のカンに指を突っ込んで、それをなめて
いるようなシーンが挿入されているくらいなのだから。
この映画は、犯人の行動が一番、実はよくわからない。
一人の娘だけを特別に生かして、8年経過したのち、また親に交換
条件にお金を要求するという行動も、今ひとつ説得力にかける。
お金がほしいなら、すぐに続けざまに要求したほうが、自然に思える。
娘の父親は、犯人に急に多額のお金の用意を要求されても、牧師を
やめて転職した後で、当然金はすぐには集まらない。
というように、書けば書くほどにいろいろ疑問が出てはくるのだが、
一度見始めたら途中でやめることができなかった。
暗いトーンと、殺しの場面では血が出まくりの陰惨なシーンなのだが、
目をそらさせない。
犯人が音のマニアというのが、マニアっぽくて良かった。そこを利用して、
犯人とコンタクトをもとうと、娘の父親がネットのオークションサイトを
利用する。
そこの犯人とのやり取りは面白かった。
ウ・ミノ監督はこの作品が初監督とのこと。次回作の期待が大きい。
娘を誘拐された牧師チュ・ヨンスを演じた俳優キム・ミョンミンは、実際に
7歳になる息子の父親である。
2010年6月のインタビューでこのように述べている。
先日、小学生の女の子が昼間に拉致され性的暴行を受けた事件の話
が出ると、怒りを抑えられない様子だったという。
「誘拐犯の多くは、どんなに教化し治療しても再び犯行を重ねます。
いかなる処罰も十分ではありません。子どもを持つ親なら同じ気持ち
だと思います」。
キム・ミョンミンは実際に信仰深いキリスト教信者だ。「演技をする
ことになったこと、ここまで来れたこと、これらすべてに感謝するのみ
です。これまでの役で最も気に入ったのが今回の牧師役です。
観客にもこの映画を気に入ってもらえば幸いです」。
参照:映画『破壊された男』主演のキム・ミョンミン
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