むぅびぃ・とりっぷ-マンガ古賀新一

「うへーっまたしつこい料理」
と、生まれつき胃弱な、ダンナが嘆く。
「おいしそうでしょ 脂がたっぷりのってるわよ」
マイペースな奥さんは、食事をテーブルに並べていく。


無理してその用意してくれた食事を食べた、ダンナは「ゲホッ」と、
口を押さえて調子の悪さにうなだれる。
そんな事は気にもせず、食事を続ける妻。


ダンナは、妻をみて心のなかでつぶやく。
『だが、妻の胃は健康そのもので大食漢ときている。 四六時中
おれのそばでブタのごとくよく食べる。 これは、おれにとって
どれほど辛いことか』


食べ終えた妻は、「フー」と腹を押さえ
「ああ 眠くなってきたあなた、あと片づけ頼むわ」
ダンナは驚き、
「ちょっと待てよ たまにはおれに楽させてくれよ」
「だったら高給取りになるのね。 わたしもっと食べたいものたくさん
あるのにがまんしているんだから」
奥さんは冷たくダンナの言葉をはねつける。


これは、「魔女地獄 ~古賀新一傑作集~」というタイトルのマンガ
におさめられている「変身妻」という作品。
この、カカア天下ぶりが面白くて、このマンガを紹介したいのではい。
実は次の場面のぶっ飛んだ展開にある。


「あなた,、出かけてくるわ。 今日も夜おそくなるから」奥さんは調子
の悪いだんなさんを置いて、出て行く。

そして奥さんは帰らぬまま半月経ち、だんなは街をぶらつき、奇妙な
中華料理屋を目にする。

そこには「当店ではどんなに胃が弱くても、 おいしく食べられます」
と、書かれた張り紙がしてある。
そこの店主、自らが「さぁ どうぞお入りください」と、店内に案内
してゆく。


そこにはベットがあり、店主により、ダンナは裸になって寝せられる。
のんきに「どうなってるの これ」と、ダンナは問いかける。
「つまり胃の手術ですよ」

店主は、説明する。

数時間後に、ダンナは感激。
「うまい!! 脂っこいのも平然と食べられる」

つまりこの店は、胃の弱い方は胃の手術をして、根本から料理をおいしく

食べてもらおうと、いうわけだ。


実に理にかなっている。

そこの店主は説明する。
「料理というものはいくら優れていても正常な胃袋でないとあじわえ
ません。 当店としてはあくまでお客様に満足していただくための
サービスでございます」


そこの中華屋のサービス(手術)を受けてから、だんなは別人のように
元気に食べるようになる。

奥さんがいない一人ぼっちの部屋の中でダンナはつぶやく。


「これで五杯目。なんたる健啖家(けんたんか)ぶり。まるで女房み
たいだ」 
「はっ!!」
「まさか女房の胃袋じゃ」


この後、話はまだ続くのだが、ここまでのシーンでぼくは相当にこの
発想にまいった。手術をする中華屋というのも良かったし、食欲が出て
めでたしかと思えば、消えたはずの憎い女房が、自分の体の一部に
なっているというのも、複雑な心理で余韻が残る。


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