プリンセス・トヨトミ (文春文庫)/万城目 学
¥750
Amazon.co.jp

「プリンセス トヨトミ」という映画が、公開されて約半月、経とうとして

いる。
日本映画に関しては腰が重いぼくは、未だに見に行くべきか、DVDが
出てからのレンタルですまそうか、迷っている。


「豊臣秀吉の子孫がひそかに大阪に生き残っていた」という、
ことから、「大阪の公共機関や商業活動など、あらゆる機能が停止する
一大事件に巻き込まれていく」という、展開。
そのちゃめちゃなストリーと、ぼくの好きな女優の一人である、「綾瀬
はるか」が出ているのが、魅力的だ。


僕のよく参考にしている映画評論のサイト「超映画批評」でもこの映画
に関して、このように評している。

『プリンセス トヨトミ』は、日本人に日本の正体、その強さを教えて
くれるすぐれた作品である。しかもそのフォーマットは、間抜けなお
バカコメディーのそれ。そのギャップは他に類を見ず、じつに新鮮で
ある。


ところで、週刊文春6月16日号に、プリンセス トヨトミの原作者である
万城目学(まきめ・まなぶ)の阿川佐和子によるインタビューが掲載さ
れていた。


印象的だったのは、阿川佐和子が中学の頃から時代小説をたくさん読ん
できたという万城目に対し、彼の創作の原点を聞き出している点だ。


阿川 「自分で書いてみよう、とは?」
万城目「それは思ったことなかったんですけど、ただ、高二のとき、
    現代文の先生が”発想跳び”の宿題を出したことがありまし
    て……。
阿川  ハッソウトビ?
万城目「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな、ひとつのことが思わぬ
    結果をもたらす話をつくる宿題。で、「風が吹けば花屋が儲
    かる」というお題でちょっとやってみい、一番オモロイやつに
    賞品やるから、という。

阿川  へぇ~。で、万城目少年はどんなのを書いたんですか。

万城目「サラリーマンの男が主役の話なんですよ。風が吹いたら電車が
    止まって、会社に行けなくなったから家に帰る。すると奥さん
    が男と浮気してる。激怒した男が二人を殺して庭に埋めたら
    きれいな花が咲いて、それを売って花屋が儲かる、っていう。

阿川  それはまたシュールというか、ブラックというか・・・・・・(笑)

万城目 生徒が宿題でそんな話を書いてきたら、カウセリングもんで
    すよね(笑)。でも、先生が「万城目のが一番よかった」って
    賞品をくれたんです。それが漢字ドリルやったっていうガッカリ
    のオチなんですけど。

阿川  ハハハハ。
万城目 でも、それはあとあと考えると、大きな出来事だったんですよ。
    そのとき僕は生れて初めて好きなように文章を書いたんです。
    本来、学校で褒められる文章って、道徳心が高くて公共心
    も高い……。


そのことが発火点になって書くことに目覚めたかというと、そのときは
それっきりだったという。

そして大学3回生の秋に1年かけて400枚書きあげる。
その後、静岡の科学繊維メーカーに就職して土日に書くという生活を
送る。しかし、土日だけ書くという生活では創作が進まないことから、
会社をやめて東京に出る。そしてひたすら、新人賞に応募。 


阿川  それは大学時代と同じ、気持ち悪い系の小説ですか。
万城目 気持ち悪い系て。まあ、純な小説を書いていました(笑)。でも、
    二年間、一次選考すら通りませんでした。
阿川  箸にも棒にも・・・・・・・・・・?
万城目 まさにその表現以外、思いつかんです(笑)。

阿川  落ち込みましたか。
万城目 落ち込まないですね。書くしかないんで、落ち込む暇もないです。
    それで二年がたち、貯金も三十万になって、これはあかんって思っ
    て。じゃあ最後に書いて、駄目やったら大阪帰って再就職しよう、
    と思って書いたのが『鴨川ホルモー』だったんです。

阿川  京都を舞台にした、学生たちの奇想天外な物語で・・・・・・。純な
    小説から、何でまたこんな極端な方向転換を?
万城目 現実を見たといいますか・・・・。二年間、一次選考すら通らなかった
    方向でまた書いてもダメだろうと。
    僕はずっと「僕」という一人称で書いていたんですけど、『鴨川
    ホルモー』の一つ前に、中年探偵の話を「俺」で書いてみたんです。
    そしたら自分としてはすごく面白く書けたんですよ。
    一次選考で落ちましたけど(笑)。

阿川  アハハハハ。
万城目 で、そのとき、発想跳びの話を思い出したんです。
    ああ、今まで作文コンクールみたいな話を書いてたけれど、最初は
    好き勝手書いたやんか、それでええんやと知ったやないかというの
    を、やっと思い出して。
    
さて、このインタビューからぼくはこのようなことを思った。

高二のときに、現代文の先生が何気に出した”発想跳び”の宿題。それがこ
のような結果に結びつくとは、誰にも想像がつかなかったであろう。
先生が、プレゼントしたものは漢字ドリルだけではなく、万城目学という作家
を彼にプレゼントしたと言えるのではないかと……。


参照:文藝春秋|雑誌|週刊文春