11日の金曜日、大阪と東京をつないでテレビ会議をおこなっていた。
ここは、ビルの23階だから、眺めがいい。(ビルは27階まであります)
ぼくは東京側にいたわけなのだが、会議の途中で、突然グラグラと揺れたのに
は驚いた。

椅子から立ちあがって外を眺めた人が、「向かいのビルが揺れている」と、
言ったのを聞いてぼくも立ち上がった。


● やばい事になってます
しかし、よく立ち上がれない。
何か酔っ払ったかのように、足元がおぼつかない。それだけ揺れていたわけな
のだ。

外を眺めると、信じられないことに、うちの会社が入っているビルと、おなじ
ように高いビルがゆらゆら動いていた。

「大丈夫ですか、後ろの机がめちゃくちゃ、やばい事になってますよ!」
と、大阪の方からTV会議を通して声をかけてくる。

ふと、後ろの机をみると、揃って並べていたはずの机と椅子がぐちゃぐちゃに
なっていた。急きょ、会議は中止にして会議室を出た。

廊下のビルの壁が、多少崩れてじゅうたんに、白く落ちていた。
いつものオフイスに戻った。

外を眺めると、遠くのビルから黒い煙がもうもうと上がっているのが見えた。
これは、九段会館の火災だったということを、ネットで見て知る。


すきっ腹にウーロン茶を飲み過ぎていて、それで地震で揺さぶられたから気持
ちが悪い。ぼくだけかと思ったら、おなじように気持ち悪いと言う人がいて、
『ウーロン茶だけのせいでもないんだ』と、思った。
揺らされているのが、遊園地の遊具・コーヒーカップに乗ったように、軽く
酔ってしまったようだ。


見ると、机の下にもぐりこんでいる人がいる。やけにハイテンションになって
喋りまくっている人もいる。なんだか少しはしゃいでいるかのように見えた。


あまりに、ちょっとした揺れに敏感に反応することに対して、人事の人が
「そんなに、いちいち揺れるたびに、大げさに反応してもどうにもなんないだ
ろうに。」と、さとしていた。


● ワンセグの大活躍
ニュースを聞いていた。JRは地震の影響でストップしてしまい、終日電車は
動かないことを知る。つまりは、自宅に帰れないことが判明する。
必然的に会社に泊まることになる。すぐに、ホテルの予約にパソコンに向かう
人もいて、「取れた!」と、喜んでいる声が聞こえた。


人事の人が近くのコンビニから、カップヌードルやおにぎりやサンドイッチを
買ってきた。これは、ありがたかった。


エレベーターは地震の影響で、15階までしか動いておらず、16階から23
階までは徒歩で上がって行く必要があった。コンビニのびっしり入った袋を
もって、8階分、階段を上がるのは、ご苦労なことだった。


ひたすら、地震のニュースをテレビやワンセグで見ていた。ほとんどの人が会社
で支給された携帯でワンセグを見ていた。ワンセグの大活躍だった。
東京の地震はともかくとして、東北のつなみの映像は、信じられないものだった。

「普通の一軒家と、おおきな船と、車が同じ景色の中に存在する。それって、
普通はありえない光景だよね」と、おもわずぼくは語りかけていた。

青森の実家の様子がわからなくて、何度か携帯で電話をしてみたのだが、つな
がらなかった。海寄りの場所ではないので、そんなに被害はないだろうと、思う
のだが、連絡が取れないので、不安感が増した。
特に、ニュースで見た八戸の状況はあまりにひどい為、ますます心配になった。


後で自宅に戻ってから、固定電話でようやく連絡がついた。青森の両親は近く
の公園まで車で行き、車の中で地震がおさまるのを待っていたということだった。


● 妻の誕生日
妻とは、メールがつながったので、連絡はとれていた。
アンケートモニターの座談会で渋谷に出かけていた。同じように、地震で帰れ
なくなって、渋谷のビルで一夜を明かしたというのを聞いた。
別の会合でのケーキが残っていたらしく、「ケーキを2個ももらって、食べ
ちゃった」というのを聞いた。


11日は妻の誕生日だった。不思議なバースディケーキになったわけだ。また、
今までの誕生日の中で忘れられない1日となったことだろう。
結果、夫婦共々、同じような状況に陥ったわけだ。


女子社員が、「こうゆう地震の時は、一人で部屋に居ると、不安になってしま
うのよねぇ。こんな時、結婚してればなぁって思うのよねぇ。」
と言い、他の独身の人もうなずいていた。


結局、一睡もすることなしで朝を迎えた。会社の仕事をしていたのだが、半分
以上はニュースを聞いたり、うろうろしていたので、あまり仕事ははかどらな
かった。

ぼくは、夜型の人間なので、夜中に起きていることは、わりと平気なのだ。

朝の交通の状況に、みんなの関心は集中していた。
朝の8時半頃に、電車の乗り継ぎでなんとか池袋までは、いけそうなことがわ
かった。

早く、家に帰って熱いシャワーを浴びたいと、思った。

外に出ると、風が冷たかった。徹夜をすると、とくに寒い。
電車で座ったとたんに、安心感と車内の暖かさで猛烈な睡魔が襲ってきた。す
ぐに眠りこけてしまった。

それでも、いっしょにいた会社の人に起こしてもらい池袋で降りた。

まだ、店も開いておらず、コンビニに入ってみたら、弁当やパンの棚がほぼ、
空っぽになっていた。JRの駅では、運行の確認をとる人の群れが説明する
駅員さんを囲んでいた。

フォーカスを買って、池袋の小さな公園のベンチに座り眺めていた。
「伊藤リオンが歌舞伎町にやってきた」という記事や、「盗撮防止キャンペー
ンのCMに登場する美女(ティアラ)」の記事に見入っていた。


妻からメールが入る。
「何か渋谷から副都心線で池袋まで行ってそのあと有楽町線で和光氏まで行って
トントン拍子に電車がつながってて、ラッキー」
とのことで、最寄りの駅につながる私鉄電車も動いたようだ。
ぼくも重い腰をあげて池袋駅に向かった。