会社から、どこにも寄らず真っ直ぐに自宅へ帰る。ぼくにしては、
とても珍しい日。
そして、マンションの扉を開けて
「ただいまー」と、元気よく奥まで声を通す。
当然、次には、
『あら、めずらしい。今日はやけに、はやかったじゃない。』
と、妻が答えるシーンを想像していた。
しかし、何か静かだ。
でも、部屋には電気はついているし、留守ではないはず。
「ただいまーったら、ただいまー」ぼくは、しつこく返事を待つ。
妻が、やっと気づいたような素振りで、こちらに近づいてくる。
何かムードがいつもと違う。
瞬間いやな予感がした。予感は的中した。
「パソコンにHな写真、いっぱい入れたでしょ。」
「え?」
「いっぱい入れたでしょ。」
ぼくは、追い詰められた犯人のようだった。でも、どうしてわかっ
たのだろう?
妻はほとんど、ぼくのパソコンに手を触れる事はないのに。
それに、何も子供が聞いているところで、こんな話しをしない
でも・・・。
と、まだぼくは事の重大さになぁーんも気がついていなかった。
「ケンジ(子供の名)がね、おとうさんのパソコンを借りたのよ。
学校でデジカメ写真で撮った植物の写真を見ようとして。
マンションの子のコウジ君と一緒にね。
それで、ソフトを起動させたら、いきなり女の人の裸の写真が
出てくるじゃない。コウジ君もびっくりよ。
コウジ君は、「きっと、ケンジ君のおとーさんが、入れたんだね。」
と、冷静に言ってたらしいけど。
わたし、コウジ君のおかーさんに、あやまっておいたからね。おか
あさんは寛大で、笑っていたけど。このての話しは、すぐ広まる
から。
まったく、マンションの人に合わせる顔がないわよ。」
ケンジは、複雑な表情でジイを見つめていた。
そーか、そーゆー事だったのか。ソフトのファイルメニューは、
起動前にみた直近のファイルの一覧が、何点か並ぶ。
そこにカーソルがいき、ひっぱって表示してしまったのだろう。
ケンジが怒ったような声でジイに言った。
「とうさん、変な写真、家に持ってこないでよー!」
胸にグサリと来る。
そして、表情が怒った顔からそのままゆがんで、悲しみの表情
に 変わった。
ケンジはウワーとゆう勢いで泣き始めた。必死でこらえていた
ものが、溢れ出たようだった。
さすがに、小学3年生に、あの写真はきつかったかもしれない。
ぼくは、胸をしめつけられた。どうにもやるせない気持ちになった。
「ぼくは、絶対家庭にエロは持ち込まない。」と、言っていた
会社の友人の言葉が、ふと、よみがえった。
「とにかく、パソコンからあの手のデーターは、全て消してね。」
妻は、有無を言わせぬ口調で言う。
妻の怒った顔、子供の泣き顔、ぼくの気の抜けた呆然とした顔。
そのそれぞれの顔が、ぼくの持ってきたCDが作りだした
ワンシーンであった。