皆さんは、お仕事中、製薬会社から提供される医薬品情報の資材の中から、必要な情報を探し出すのに苦労されていないでしょうか?
 

今回は、情報伝達技術(ICT)を利用した「検索システム」作りの挑戦について紹介します。

 

「情報」は、使われてこそ、価値がある !!

製薬会社から提供される主な資材には、次のものがあります。

 

これらは。印刷物として、また、各社のホームページから PDF 形式で提供されています。ただ、医療従事者は、これらの医薬品情報の構成や内容を十分に理解しているというわけではありません。

 

おそらく、“ある情報”を知りたい時に、それぞれの資材をひとつずつ開いて、必要とする情報にたどり着くのに手間や時間をかけているのではと推測します。また、欲しい情報がどこにあることすら知らない場合もあり、求めている情報を見落としている可能性もあります。

 

これは、製薬会社にとっても同じです。と言うのも、それぞれの情報提供用資材が会社内の同じ部署で作られていないからです。

 

つまり、多くの医薬品情報に囲まれていますが、残念ながら、これらは十分に使われているというわけではありません。

もったいないです。情報は、使われてこそ価値がある・・・のですから・・・

 

もれることなく「情報」を探し出せるシステムを作ろう !!

製薬会社にしてみれば、自社製品のものを管理するだけで済みますが、医療機関では事情が異なります。担当するのは、薬剤部門です。医薬品情報担当者は、各社のものを整理・管理しなければなりません。その大変さは、その業務の経験がある方は、ご存知でしょう。

 

2016年のある日・・・
複数の製薬会社の方に、各社から提供される医薬品情報の資材の薬剤部での備蓄状況をお見せしたことがあります。それを目にした製薬会社の方々は、「こんなにあるんですね !!」と驚かれていたことを思い出します。そして、それらの資材を十分に活用されていないことも理解されたようです。


その後、せっかくの情報を有効に利活用できる方法を、製薬会社と一緒に検討することになりました。その際、全国の医療機関が個々に内部システムを構築するのではなく、情報の発信者である製薬会社がその仕組みを構築する方が理に適っていると考えました。

 

目標にしたのは、情報伝達技術を利用して、製薬会社が作成した各種医薬品情報の中から医療従事者が欲しい情報をもれなく取り出せる「高度検索機能」を持つ仕組みです。ファイザー製薬がパートナーとして手を挙げてくださり、情報関連の各部門の方々と一緒に進めることになりました。この取り組みを調整してくだったのは、当時、同社の医薬品安全性統括部製品安全性監視部長だった慶徳一浩さんです。

 

何度かのミーティングの中で、複数の大手 ICT 企業から、①高速で高機能な検索エンジンを使う方法と ②人工知能(IBM Watson など)を利用する方法との2通りの提案を受けました。これら2つの方法について、少し解説します。

 

①高速で高機能な検索エンジンを使う方法

製薬会社のウェブサイト上でキーワードを入力し検索すると、登録された全ての医薬品情報の中からキーワードに関連する部分を抜き出して表示させる仕組みです。この方法では、資料を1つずつ開く必要はなく、1回の検索で目的の情報に辿り着くことができます。
 

②人工知能(IBM Watson など)を利用する方法

医療従事者が音声などで知りたいことを質問すると、その質問内容を人工知能が理解し、医薬品情報の中から必要な情報を探し出してきて回答するというものです。コールセンターの一次対応を人工知能が24時間担当したり、オペレーターの業務を人工知能が支援したりするなど様々な活用方法が見込まれるが、この方法は、実現には時間がかかります。

 

最終的に、①の方法で進めることになりました。

試験用システムは、完成しました !!
そして、IT企業のシーエーシーと共同で2017年7月~9月にかけて、キーワード検索するだけで複数の資料(添付文書、インタビューフォーム、RMP文書)から欲しい情報を短時間で検索できる「医薬品情報提供システム」(仮称)が出来上がりました。このシステムは、クラウドサービスを提供するアマゾンウェブサービス(AWS)技術を利用したものです。

 

システムの仕組みは、次の通りです。

 

情報利用者である医療従事者とMRのメリットをまとめました。

 

同システムは、サイト上で検索したい医薬品名を選び、「腎機能障害」などのキーワードを入力すると添付文書1件、インタビューフォーム2件などと検索結果が表示されるものです。

 

キーワード検索をした時の、結果イメージです。

 

そして、画面上の「PDFダウンロード」の部分をクリックすると、キーワードが黄色でハイライトされ、すぐにPDFファイル上の該当箇所を確認できます。また、有効性や安全性などの項目検索、患者向け医薬品ガイドなどの資材の検索も可能です。

 

実証実験は、山口大学病院薬剤部で行いました。ファイザー社の抗うつ薬「イフェクサーSR( 一般名:ベンラファキシン塩酸塩)」など4製品について、添付文書、インタビューフォーム、RMP、使用上の注意改訂、患者向け医薬品ガイドなど7種類の資料を検索する試験運用を2段階で行い、技術的評価を行いました。

 

その結果、キーワード検索により、基本情報である添付文書、インタビューフォーム、RMP文書、患者向け資材を短時間で漏れなく検索でき、参照できました。


このシステムは、PDF形式の資料をドロップするだけでファイルのアップロードができ、少ない作業負荷で資料を管理できることも分かりました。

また、安価で汎用性を持たせていることから、業界標準への展開も可能である・・・と希望が持てました。

 

ただ、“業界標準”となるためには、情報提供側の製薬会社にとってのメリットも重要です。想定できるメリットを、次に示します。


試しに、使ってみてください。
興味のある方は、このシステムを試してください。我々の取り組みの 延長線上の応用例です。
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医師や看護師からの問い合わせに対し、複数の資料から必要な医薬品情報を。すぐに漏れなく探せるというメリットは大きいです。また、患者向け資材を用いてベッドサイド、薬局窓口や患者宅などで、iPadなどの画面を見せながら患者への説明がしやすくなります。


多忙な時に何ページもある添付文書などを読み、欲しい情報を探すのは大変で、副作用など重要な部分を読み落としてしまう危険性を取り除くには、このようなシステムが役に立ちます。

 

情報伝達技術の進歩に、ほんと感謝です !!

余談ですが・・・
この取り組みは、薬事日報で紹介されました。

ありがとうございました。

【参考】 

●医薬品情報、ITが活用支援‐高度検索エンジンや人工知能(第11840号、2017年03月01日)

●医薬品情報を一括検索‐新システムの試験開発成功 山口大学病院薬剤部、ファイザー 汎用性で業界標準目指す(薬事日報第11962号 2017年12月22日)