手元のスマートフォンで、こんなに簡単に、それも無料で「ビデオ通話」ができるなんて、20年前は予想もしていませんでした。

 

このシリーズも、いよいよ最後のテーマとなりました。今回は、「身近な通信機器を利用した患者モニタリングへの挑戦」について紹介します。

 

2010年代、スマートフォン保有率が急増した !!

総務省の調査データによると、2020年における世帯の情報通信機器の保有状況は、「スマートフォン」は86.8%、「パソコン」は70.1%、「固定電話」は68.1%です。このうち、「スマートフォン」に注目すると、9.7%(2010年)→62.6%(2013年)→71.8%(2016年)→83.4%(2019年)と2000年台前半で急増しています。

(個人的には、2015年12月に、「スマートフォン」に買い換えました。)

 

当たり前のように無料で利用している「ビデオ通話」ですが、それが可能になったのは、2003年8月にMicrosoft 社が「SKYPE(スカイプ)」の一般向けサービスを開始したことによります。このサービスは、パーソナル・コンピュータを使用したものでした。

 

そして・・・2011年6月23日、スマートフォン向けの無料通話・メールアプリケーション「LINE」が登場しました。その「LINE」が、2013年9月24日、ビデオ通話機能を追加しました。

 

スマートフォンを用いた「患者モニタリング」

ひとり暮らしの高齢者が増加し、地域の医療提供体制が在宅医療にシフトする中、病院や薬局を訪問できない患者の健康状態の継続した観察(モニタリング)は難しくなっています。

 

一方、2010年代に入り、作用が強力な新薬が次々と登場することに伴い、重要な薬物有害作用(副作用)の発生を早期に発見し、患者を健康被害から守るための継続したモニタリングの必要性が高まっています。

 

そこで、急速に普及が進んでいるスマートフォン、タブレット端末に着目し、患者がどこにいても副作用の発生状況をモニタリングできるシステムの構築の取り組みを始めました。


特に高齢化が進む過疎地域や離島の多い地域での必要性が高いと考え、鹿児島県姶良地区薬剤師会(福森 淳 会長)に提案したところ、協力が得られることになりました。そこで、臨床研究としての倫理審査委員会承認を受け、2015年10月から取り組みを始めることになりました。

 

モニタリング対象は、以下の4つの医薬品を服用している患者としました。

①発売1年以内の新規医薬品

②添付文書の「警告欄」に定期的な検査実施が義務づけられている医薬品

③服用方法が特別な(1回ごとの用量が異なる、休薬期間があるなど)医薬品)

④誤投与時に重大な健康被害発生の可能性が高い(ハイリスク)医薬品

 

具体的には、対象薬が投与されている外来患者に対し、薬局薬剤師が週1回、専用携帯端末(iPad)から服薬状況と副作用の兆候がないか確認するメールをスマーとフォンに送信します。受け取った患者は、異常の有無をメールで返信します。


必要に応じて動画での通信を行い、薬剤師が患者の顔を見ながら状況を確認し、重大な副作用の恐れがある場合は、薬剤師が患者に受診を勧めると共に、担当医に連絡すします。

 

患者ごとの通信記録は、姶良地区薬剤師会のパソコンに保存します。

 

研究を始めた2015年11月の時点では、スマートフォンを所有し、LINEを利用している患者も多く、研究のためにスマートフォンを用意する必要はありませんでした。これは、実用化に向けての大きな要素です。

 

取り組みの成果を公表

この取り組みの結果は、第36回日本医療情報学連合大会「共同企画 6 処方せん・医薬品をめぐる最近の話題」で報告しました(横浜パシフィコ、2016年)。

 

また、ベーリンガー・インゲルハイム社主催の「BI ファーマシスト・アワード 2017」に応募し、準グランプリをいただきました。

当日の発表内容は、youtube動画で視聴できます。

準グランプリ 鹿児島県姶良地区薬剤師会 福森 淳 先生 (youtube.com)

 

このようなアィディアは、誰でも思いつくレベル。高機能のシステム構築には開発費用が必要ですが、すでに提供されているアプリケーションを利用するだけでも、ある程度のシステム構築は可能 ・・・ です。

 

※この取り組みに関心を持っていただき、記事として紹介していたただいた「薬事日報社」と「じほう社」に感謝します。

●薬事日報

●調剤と情報(じほう)

 

余談ですが・・・

医療分野への携帯端末機器の応用は、1999年、NTT docomo の“i-mode”機能に注目して取り組んだことがあります。1999年2月に利用開始された“i-mode”機能は、インターネット・メール送受信やウェブページ閲覧などができる世界初の携帯電話IP接続サービスです。

 

当時、金沢大学病院で臨床試験管理の業務を担当していたので、被験者と臨床試験実施医療機関間の双方向情報伝達に “i-mode” 機能を応用しようと考えました。ただ、その頃は現在のように携帯電話が普及しておらず、被験者のための携帯電話の購入費用と通信費用が必要となり、実使用には至りませんでした。

これは、「タイミングの重要性」を学ぶ、いい経験でした。