70歳(2023年3月)の区切りに計画(1年)した「過去に取り組んできたことの整理」・・・ですが、予定通り、ゴールが見えてきました。

 

日経「DI オンライン」 に、コラムを連載していました。2011年11月から2014年4月まで38作を書き、一時休筆し、退職後の2018年9月から、連載を再開しました。
ところが、再開後50作目となる2022年11月のコラムに対して、編集部から内容に関して指摘を受けました。その指摘内容に納得がいかなかったので、連載を止めました。高齢者は、幼児みたいに我慢ができなくなりますね(笑)。

今回は、ゴール手前として、“ボツ” になった原稿を公開します。

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健康情報を外国籍の民間企業に握られる危険性

 

医療安全システム☆デザイナー 古川裕之

 

9月5日の「Amazon、処方薬ネット販売に参入 中小薬局と患者仲介」という日経新聞web配信記事をご覧になられた時、「来るべきものが、間近に迫ってきた !!」と感じた読者は少なくないのでは・・・と思います。

 

2019年の今頃に発生したCOVID-19と同様、“情報不足”は不安を生じる大きな原因です。不安を少しでも軽減するには、信頼できる情報を得ることが一番。では、改めて「amazon薬局とは、一体どのようなものか?」を知ることから始めましょう。

 

Amazon薬局・・・とは、どのようなものか ?

皆さんは、米国本国の“amazon pharmacyy”のサイトにアクセスしたことがありますか ?

英語で書かれていますが、画面上で自動翻訳ボタンを押せば、日本語に翻訳されます(残念ながら、動画は英語のままですけど・・・)。併せて、解説記事(2022年9月6日)もご覧いただくと、Amazon薬局の全体像が理解できると思います。

 

これらを参考に、「想定されるAmazon薬局の仕組み」を図にまとめました。この中に出てくる「プラットフォーム(platform)」とは、サービス、システムやソフトウェアを提供したり、設定変更(カスタマイズ)したり、運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」のことです。

 

Amazonの現時点の計画では、中小薬局をパートナーとして登録するとのことです。パートナー薬局側が支払う費用は、受け付けた処方箋件数に基づく手数料やオンライン服薬指導の委託オプション費用などではないかと推測します。つまり、従来行っている日用品などの商品同様、amazonは“場(プラットフォーム)”を提供するというものです。ここで、忘れてならないのは、調剤はそれぞれの薬局で行いますので、パートナー薬局での調剤業務の負担は全く変わらないということです。

 

「Amazon薬局」に関して心配なこと・・・とは ?

“黒船”のような、amazon薬局の到来によって、どのような心配事がしょうじるでしょうか?

まず、目を通してほしいのは、DI online で公開されている狭間研至先生と熊谷信先生の「Amazon 薬局」を話題にした3つのコラム(A, B, C)です。これらのコラムから、現場の声を知ることができます。

 

続いて、9月8日に行われた日本薬剤師会山本信夫会長の定例記者会見での記者からの質問に対するコメント内容も、9月9日配信の公開記事で読むことができます。これは、日本薬剤師会のホームページで公開されている定例記者会見の概要には書かれていないものです。日本薬剤師会の姿勢を知ることができます。

 

さらに、最近のものとして、10月23日にweb配信されたAERAの記事です。この記事中には、熊谷信先生のコメントも書かれています。また、10月27日には、ABEMA TVで「“Amazon薬局”上陸報道に業界激震 影響は?」というタイトルのニュースが放送されています。

 

これらの記事で指摘されている“心配事”は、次の2点です。

(1)プラットフォームの提供だけで終わらない・・・のでは?

(2)自然災害・新興感染症などの緊急時に、十分な医薬品供給ができないのでは・・・?

 

この2つの“心配事”については、次のように考えています。

(1) 参入当初は「プラットフォームの提供」ですが、登録した中小薬局をネットワーク化することにより、中小薬局の集約化が進み、その結果、薬局が次々と消えていくのでは・・・という心配です。
 

現在のアマゾン(や楽天市場)の仕組みを見てみると、プラットフォームの提供が中心です。このため、アマゾンが個人薬局を買収することは考えにくいと予想します。もし狙われるとしたら、米国同様、仕組みの整った大型調剤薬局チェーンでしょう。

集約化については、amazon薬局よりも心配なのは、遠隔医療という新しい仕組みの影響です。遠隔医療の拡大に伴い、立地条件という因子がなくなり、また、オンライン服薬指導で患者にどのように対応するかによって、従来の処方箋受付件数が大きく変化(急減や急増)します。そして、その結果が、薬局の集約化です。この対応については、後の部分で取り上げます。

 

(2)地震や台風などの自然災害の多い日本において、物流拠点が限定されると、災害時の医薬品供給が適切に行われないのではという心配もあります。しかしながら、想定されている仕組みでは、調剤を行うのは各薬局です。Amazon薬局は、独自の調剤センターを兼ねた備蓄センターを用意するわけではありません。

このため、現時点では、災害時の医薬品供給への心配も少ないと予想します。むしろ、自然災害や新興感染症発生時の医薬品供給体制の整備は、地域の災害リスクを考慮して、amazon薬局とは別に対応する必要がある課題です。

 

健康情報が外国籍の民間企業に蓄積されることの危険性

これら2点以外に、大きな心配があります。それは、処方情報が、海外の民間企業に電子的に蓄積(データベース化)されるということです。

 

ご存知の通り、2021年10月26日、デジタル庁は、日本政府の共通クラウド基盤「ガバメントクラウド」として、「Amazon Web Services (AWS)」と「Google Cloud Platform (GCP)」を選んだと発表しました。

 

電子処方箋が開始されると、処方情報は企業Aに伝達され、その情報はサーバー内にデータベース化されて蓄積されます。そして、もし日本政府が全日本国民を識別する“マイナンバー”を AMS のクラウドサーバーで管理することになった場合、紐づけされた健康保険証番号をもとに処方情報だけでなく診療情報全体を含む国民の健康情報が、民間企業Aのサーバーにデータベースとして蓄積されることになります。つまり、日本人の健康に関する情報が、海外の民間企業の管理下に置かれるということです。

 

大量の健康情報は、製薬会社をはじめとする健康関連企業にとって、とても貴重なものです。蓄積データの目的外使用の確認は難しいだけでなく、途中で新たな目的が追加されても、気づかないという可能性もあります。たとえ「本来の目的以外でデータを使用はしない」と明記されていても、「はい、わかりました」と簡単に受け入れるわけにはいきません。

基本的な社会保障の一環として多額の税金が投入されている日本国民の健康情報を海外の民間企業に握られる可能性があるというのは、大きなリスクです。このリスクを、日本政府は十分に理解する必要があります。

 

地域の中小薬局が協力して、取り組めないものでしょうか?

すでに、大手調剤薬局チェーンは、amazon 薬局と同じような仕組みづくりを進めています。だから、 amazon は、中小薬局をパートナーに選んだわけです。

 

ここで、もう一度、冒頭の図に戻ってください。この図で、「amazonのプラットフォーム」と「amazonの流通網」の部分を、「国内企業のプラットフォームを利用する薬局」と「日本郵政や宅配業者(ヤマト運輸や佐川急便など)の流通網」と置き換えることは可能です。つまり、amazon薬局のような仕組みは、日本でも作ることができます。違いは、「amazon」というブランドの知名度です。

 

同時に、災害リスクの高い地域では、自治体の災害対策の一環として、緊急時の医薬品供給に対応できる体制の整備を進めることも重要です。これは、各自治体の災害対策チームに積極的に参加することで貢献できます。

また、多くの業界で業務の自動化・ロボット化が加速していることを考慮すると、最新の調剤支援機器を備えた調剤センターを各地域に設置することも必要です。国民の健康維持・増進のために薬剤師が活躍する場を拡大するためにも、とても重要です。

 

隣の薬局は“商売敵”かもしれません。でも、時代の変化に飲み込まれてしまっては元も子もありません。地域の状況は、それぞれ異なります。だからこそ、地域の特徴に合わせた仕組みを、地域内の中小薬局が協力して作る必要があるのでは・・・と思います。 

 

個々の薬局の努力だけでは、問題は解決できません。中小薬局が主な会員である地域の薬剤師会なら、それができるのでは・・・

 

【今月の1枚】

ここは、「備後落合駅」。

広島駅から三次駅を経て備中神代駅に至る「芸備線」の途中駅。

1日1回、広島県、岡山県と島根県からの列車が“落ち合い”ます。

 

おまけとして、この写真に関連した自作のyoutubeもお楽しみください。

ほんと、便利な時代です。おかげで、退屈しません(笑)