電子メールやSNS(Social Network System)を用いて、スタッフ全員への情報一斉送信を行っている職場は少なくありません。これは、全員に確実に情報を送ることができるだけでなく、開封状況の確認もできるので、“情報を伝える“という点ではとても効果的な方法です。

 

ただ、情報は、送れば終わりではなく、その内容を受け手に正しく理解してもらわないと意味がありません。つまり、“情報が伝わった“かどうかは不明です。

今回は、この“情報が伝わる”ための工夫例を紹介します。

 

“伝える”から“伝わる”への工夫が必要
情報を正確に伝達することは、簡単ではありません。情報を伝えたつもりでも、うまく相手に伝わっていないという経験は誰にでもあると思います。

その原因は、「情報の送り手」と「情報の受け手」の両方にあります。

情報の送り手側の主な原因として、次の2点があげられます。

 ①伝えようとする情報内容がまとまっていない(整理されていない)

 ②説明がダラダラと長過ぎる(要点がわかりにくい、メリハリがない)

一方、情報の受け手側の主な原因として、次の2点があげられます。

 ①送られた情報を正しく理解できない(自分なりに解釈する)

 ②情報を受け取るという意識が欠けている(自分は関係ないと思っている)

 

受け手にその内容が確実に伝わり、正しく理解されるには、“伝わる情報”への工夫が必要です。

 

ヒントは、災害時の「アクションカード」
2013年から2015年にかけて、毎年、6~7人の新卒薬剤師を職場に迎えました。薬剤師の人数も増える中、業務を円滑に進めるためには、業務に必要な情報を全スタッフに理解してもらうことが重要となりました。

 

その方法について検討していた時に出会ったのが、はがきサイズの「アクションカード」でした。

それは、病院で行われた災害訓練のときに、災害本部で本部長から各部門の管理責任者に手渡されたものです。そのカードには「各責任者がすべきこと」が具体的かつコンパクトに書かれていました。

 

渡されたカードを見た時、「これは、使える !!」と、感じました。



“伝わる”情報ツール「To Do Card」

そして、誕生したのが、「To Do Card」です。まず、スタッフに提案するために、「To Do Card」の見本を作成しました。2014年のことです。

続いて、見本だけでなく、スタッフの誰でも「To Do Card」を作成できるように、作成の基本、作成対象の情報と利用者を以下のように整理しました。


 

「To Do Card」は、MS-PowerPoint で作成します。次の図のような、作成用フォーマットを用意しました。

 

「To Do Card」は、インシデントや業務上のトラブルや新たな業務などが発生した時に、関係するものが作成します。

例えば、インシデントが起きた時、そのインシデントが他のスタッフでも起こす可能性が高いものであれば、当事者を中心に再発防止に向けた注意・確認ポイントを整理してカードを作成します。

また、管理が特殊な医薬品については、医薬品管理担当者がその管理・購入方法を整理して作成します。

 

こちらは、麻薬を取り扱う看護師用に作成したものです。

 

「To Do Card」は、薬剤部スタッフ用だけでなく、患者用として使えるものも用意しました。これは、育児の視点で、担当の高砂美和子先生が作成したものです。

 

“あるものは使う” & “ないものは作る”

業務での“伝わる情報“化の目標は、誰でも、書かれていることに基づいて行動できることです。そのためには、作成するテーマに関して行動すべきことを整理して、具体的かつコンパクトにまとめることがポイントです。

 

そして、「To Do Card」の作成を次々と進め、そのすべてを山口大学病院薬剤部ホームページ上で公開しました。その目的は、他の施設で同じようなものを作成する場合、参考になれば ・・・ との思いからです。

※残念ながら、リンクが切られており、参照できません(2024年3月)。現在は、「業務手順書」の該当する部分に組み込まれているとのこと。

医薬品適正使用と医療安全を目指した「TO DO CARD」の作成とその評価
高砂 美和子,近藤 智子,幸田 恭治,古川 裕之
医療の質・安全学会誌.14(3):312-318,2019

 

“あるものは使う” & “ないものは作る” こと・・・ とても大切です。そのためには、業務改善に利用できるものであれば、それぞれの施設で取り組んだ成果物を共有することが必必要です。

 

余談ですが・・・

職場の忘年会などで、上司の冒頭のあいさつが長いのは困ります。
一般的に、忘年会は2時間コースです。美味しそうな料理を前にして、上司のあいさつが10分を越えるのは苦痛です。

そこで、こんな工夫をしました。

MS-PowerPointで作成したメッセージを全員に配布し、ポイント部分だけ説明を加えました。これなら3分で終わりますが、メッセージ内容が “伝わった” かどうかは不明です(短いあいさつのための工夫、“伝わった” かなぁ ・・・ ?)。