びっくりする報道がありました。

それは、10月17日の「治験支援会社が 123件の治験でデータ改ざんなどを行っていた」という新聞報道記事。
 この事例は、「過失(本コラムでは“エラー”)」ではなく、「故意(意図的)」に行われたものです。

 厚生労働省の発表、新聞、業界誌や雑誌ま記事から、その概要をまとめます。


参考までに、概要と今回のコラムに登場する用語の説明をします。

・治験 : 医薬品と医療機器などの薬事承認を目的とした臨床試験

・治験支援機関(Site Management Organization : SMO) : 

       特定の医療機関と契約し、臨床試験に関する業務を支援する企業

・CRC (Clinical Research Coordinator): 臨床研究コーディネーター。

   (治験担当のCRCを「治験コーディネーター」と呼ぶこともあります)
・GCP (Good Clinical Practice): 臨床試験実施のための基準(厚生労働省令)
      ・CRO (Contract Research Organization) : 開発業務支援機関。

  製薬会社などから委託された臨床試験の実施・管理と
  試験データの品質管理と監査を行う企業

 

どのような違反が行われていたか?

  「メディファーマ」社がGCP違反行為をしているとの 通報 が厚生労働省に寄せられたことから、厚生労働省は、8月下旬から9月に計3回、同社と業務を委託した医療機関に立入検査を行いました。その結果、次のような違反が確認されたとのこと。

 

 臨床試験では、試験の実施基準に合う協力者を「被験者」に選ばなくてはなりません。「被験者」とするために、検査値を改ざんしたり、意図的に基準に合わせるような働きかけは、禁じられた行為です。

 

過去にも違反行為は、何度も確認されている !!

 CRCなど支援スタッフの違反行為で、明らかになっているものを表にしました。

 

 今回の「不正行為」がこれまでと大きく異なるのは、長期間にわたり組織的に行われていたという点です。また、試験担当医師に義務付けられているトレーニング受講をSMOのCRCに代行させていたこと、さらに、症例報告者にアクセスするための「ID/パスワード」をSMOに提供していたことは、医療機関と試験担当医師側にも大きな責任があります。

 

 今回の報道は、業界全体の信用を低下させるだけでなく、国内の臨床試験の実施体制への信頼も低下させる大きな出来事だと思います。

 

不正の背景には…

 今回の出来事に衝撃を受け、過去の事例を含め、不正行為が行われた背景について考えるために、臨床試験を依頼する製薬会社、それを受託するCRO、そして、臨床試験を実施する医療機関、医療機関から業務支援を依頼されるSMOの関係を図にまとめました。

 SMOは、2003年に改正されたGCPで、その位置付けが明確化(第39条の2)され、次々と会社が設立されました。20年が経過した現在は、大学病院はじめ多くの医療機関から支援業務の委託を受けるまでに成長しています。

 

 臨床試験を「依頼する側」と「実施する側」に共通する目標は、可能な限り短期間に臨床試験を終わらせることです。そのためには、試験に必要な被験者を早く集め、必要な試験データの漏れなく進行することが求められます。これを実行できる医療機関とSMOには、臨床試験の依頼が増えます(→経済的利益が増加)。

 

 このことを前提に、誘因を2つあげます。

★誘因1: 

 不正の誘因のひとつに、この図の中の「赤い矢印」があげられます。その根拠は、日本SMO協会が、会員企業の全CRCを対象に行った調査結果(2018年7月実施、回答数 : 1010)です(※2018年の会員企業のCRC数は2893人)

※下線部分をクリックすると、調査結果を参照できます。
 

 この調査の質問項目のQ11からQ14に注目しました。

 

 調査結果は、医療機関関係者からの契約内容から逸脱した依頼を受けた経験(Q.11)は10.7%、依頼者とCROの担当者から過度な依頼を受けた経験(Q.13)が24.1%です。SMOに対し、依頼する側も実施する側も、不適切な働きかけをしていることが分かります。そして、重要なのは、依頼者・CRO担当者からの働きかけの中には、5件の「危険事例」です(Q.14)。

 

 このような不適切な働きかけが、CRC個人ではなく会社(SMO)に対して行われたとすると、不正の規模は大きくなります。

 

★誘因2: 

 もうひとつの誘因は、「メディファーマ」が2012年12月に設立された業界では新しい会社であるという点です。どの業界でも、新規参入は簡単ではありません。会社として、業務を安定・拡大させるために、社員に“無理なこと”を求め、それに従わなければならない職場環境となっていた可能性があります。

 

  また、会社が特徴としてあげている「施設常駐型採用による安定した治験実施の実現」という業務の形の悪い面(癒着 !!)が出たのでは・・・と推測します。

※11月4日現在、「メディファーマ」社のホームページには、今回の不正行為についての報告が見当たりません。

 

臨床試験データに基づいて薬事承認され、治療に使われる !!

 新しい医薬品や医療機器などは、臨床試験で得られたデータに基づいて審査を受け、国(厚生労働大臣)の承認を受けます。
 今回、不正が明らかになった「臨床試験」の中には、承認審査を終えて、すでに国の承認を受けた医薬品のものもあります。厚生労働省は、審査に影響はないとしていますが、本来は、不正のあったデータを除外して、再審査を行う必要があります。最悪の場合は、承認取り消しということもあります。つまり、臨床試験での不正は、それほど大きな出来事です。

 

 CRCの認定制度を持つ「日本臨床薬理学会」は、今回の不正報道に関して、2023年10月24日にホームページ上にコメントを公開しました。

 

 ●日本臨床薬理学会 「臨床試験における不正に関してのステートメント」
   
※この部分をクリックすると、本文を参照できます。

 

 個人的には、相対的に立場の弱いSMO、そして、そこで業務に励むCRCだけでなく、業務をSMOに委託する医療機関、さらには、臨床試験の実施を医療機関に依頼する製薬会社(とCRO)に対しても、「不正の再発防止」に向けた強いメッセージが必要だと思います。

 

 臨床試験に関係するすべての企業(製薬会社、CROとSMO)と医療機関、そして、そこで働く皆さんには次のことを認識してくださるよう、市民のひとりとしてお願いします。

 

 臨床試験におけめ不正行為は、試験データの科学性を低下させるだけではありません。「多大な時間・労力・費用」 試験に協力してくれた被験者の方々の善意」を無駄にする ことになります。そして、結果として “根拠が怪しい状態”で、多くの患者に使用されることにつながります。

 

【参考】次の情報を参考にしました。
● 厚生労働省の発表(アクセス日: 2023年10月27日)

 

● ミクス Onlineの記事(アクセス日: 2023年10月27日)

2023年11月27日開催の厚生労働省「薬事・食品衛生審議会 医薬品第二部会」の会議資料が公開されています。ご参考までに !!
株式会社メディファーマによる GCP 違反の概要及び承認済み品目への影響
 
●追記(2023年12月28日)●
メディファーマ社は、12月20日、東京地裁より破産開始決定を受け、破産しました。
負債総額は約2億円の見通しとのことです。