「医薬品リスク管理計画(Risk management Plan : RMP)」シリーズ最後は、「RMP概要シート」が “業界標準” になるまでの話です。 

 

山口大学病院時代に考案・実用化した「RMP概要シート」は、RMPの内容をA4サイズ1枚の概要にまとめ,それと本文の該当部分を紐づけるという“情報の階層化” の仕組みを取り入れたもの。 

 

「組織には組織で対応」する必要がある !!

当初は、院内で採用になった新薬の販売会社に、個別的に、この「RMP概要シート」作成をお願いしていました。ただ、「RMP概要シート」は、全国の医療機関でも利用できるとの自信がありましたので、すべての製薬会社が、希望する医療機関に提供する形にできないか・・・と考えました。

 

その相談窓口は、日本製薬工業協会(製薬協)でした。金沢大学病院時代から、新薬開発(治験)の領域で仕事をしていたので、製薬協には知り合いが何人もいました。そこで、製薬協の担当部門に相談させていただきました。

 

重要な点は、製薬協を相手にするのであれば、「山口大学病院」ではなく、全国的な“組織”としてテーブルにつく必要がある・・・ことでした。窓口になる“組織”とは、職能団体(日本薬剤師会、日本病院薬剤師会、日本保険薬局会)、病院団体の薬剤師会(国立病院薬剤師会、日石薬剤師会など)や学会(日本医療薬学会、日本医薬品情報学会など)のことです。

 

今回の「RMP概要シート」は “リスク管理” ということで、日本病院薬剤師会「医療安全特別委員会」の土屋文人委員長に相談しました。そして、個人の業績ではなく、患者のためになることと全国の薬剤師が活用できることを前提にに、委員会活動のひとつとして取り組むことになりました。

製薬協の窓口になってくださったのは、製薬協 医薬品評価委員会 PMS 部会の慶徳一浩 副部会長です。土屋委員長とともに関係部会の方々との意見交換を行い、「RMP概要シート」の必要性を説明させていただきました。RMP概要シートのことは「薬事日報」に紹介されていたので、説明に際し、とても助かりました。2014年10月のことです。

 

2014年12月24日、日刊工業新聞に「製薬協、医薬品リスク管理計画の普及へ『ひな型』」という記事が掲載されたとの知らせを受けました。その日がクリスマス・イブということで、これは、うれしいクリスマス・プレゼントになりました !!


そして、2015年5月には,製薬協のホームページ上に、このような画面が表示されました(現在、この画面はありません)

 

このページからアクセスできた「医薬品リスク管理計画書(RMP)の概要作成と利活用に関する検討」という報告書は、現在でも参照できますが、日本製薬工業協会医薬品評価委員会PMS 部会タスクフォース 1(慶徳一浩 担当副部会長兼リーダ-)の皆様が作成されたものです。


「薬事日報」の紹介記事(2015年5月13日)の記事には、次のように書かれています。

「日本製薬工業協会医薬品評価委員会PMS部会のタスクフォースは、医薬品リスク管理計画書(RMP)を分かりやすくまとめた概要を公表した。(中略)
 電子媒体で提供する場合は、RMP本文の目次機能としての利活用も一つの事例に挙げている。具体的には、RMP本文のPDFファイルの1枚目に概要を追加し、本文のページ番号を記載すると共に、本文の該当箇所へのリンクを追加することにより、PDFファイル上での目次機能として利活用する。」

 

2014年9月に試作版を作ってから1年と8か月、ついに “業界標準” という目標を達成できました。

 

厚生労働省から通知が出ました !!

ところが、それで終わりではありませんでした。製薬協PMS部会のタスクフォースの方々は,厚生労働省と独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)との検討を進め、2016年3月31日,拘束力を持つ「医薬品リスク管理計画書の概要の作成及び公表について」という行政通知(薬生審査発0331第13号・薬生安発0331第13号)が出ました。

 

この通知によって, 2016年5月9日提出分から「概要付きRMP」がPMDAホームページで公開されることになりました。また,すでに公開済みRMP文書についても,2017年5月8日までに「概要付きRMP文書」の再提出が求められました。

 

まさか、厚生労働省から通知が出るとは思ってもいませんでした。予想外の出来事に、ほんと驚きました !! 

この通知のおかげで、「概要付きRMP文書」が製薬会社から医療機関に提出されることなり、RMPが多くの医療機関に広がる前に、大きな問題点が解消されました。

 

今回の「RMP概要シート」は、臨床現場の薬剤師からの「具体的な提案」を,「組織と組織の交渉」を通して、国の仕組みに反映された例です。
(タスクフォースの皆様に感謝です。ありがとうございました。)

 

業務で活用することで、さらに役立つものに !!

PMS 部会継続課題対応チーム1(竹本信也リーダー、山田知子サブリーダー)は、2017年3月に「医療従事者の利活用を踏まえた医薬品リスク管理計画(RMP)策定のための留意事項」を公表しています。これは、「病院薬剤師業務への医薬品リスク管理計画の利活用について」を公表(2014年12月15日)した日本病院薬剤師会「医薬情報委員会(〇〇委員長)」との意見交換を元にまとめられたものです。


2024年4月の診療(調剤)報酬改定に伴い、保険薬局でRMP資材の利用が進むと、新たな疑問や要望が生まれることが予想されます。現場からの疑問や要望については、個別的な対応ではなく、“組織”で取りまとめ、「組織と組織の話し合い」での解決を望みます。そして、薬物治療を受ける患者を薬のリスクから守るために、薬剤師がRMPというツールをさらに役立つものに育てていくことが大切だと思います。

 

余談ですが・・・

WWW(World Wide Web)が登場後、本文中の用語と関連情報とのリンクは一般的ですが、この仕組みを始めて知った時、「これは使える !!」と感じました。
 

まず、全体を知る。そして、より詳しく知りたいとき、その部分をクリックすることで、より詳しい情報にアクセスできるという“情報の電子的階層化”に興味を持ちました。というのも、必要とする「情報の詳しさ」は、状況で異なるからです。

 

「RMP概要シート」は、まさに、その応用でした。