医療現場では、時々、算数計算が必要となります。例えば、医薬品の処方時、調剤時、投与時です。そして、その計算の間違いが、患者の健康被害につながることが少なくありません。
今回は、医薬品の投与量計算の間違いを防ぐための“教育資材”の作成経験(2005年~2013年)について書きます。

 

医薬品の投与量計算に興味を持ったきっかけ

1996年(当時43歳)、金沢大大学院薬学研究科に、「医療薬学専攻(定員24名)」が設置されました。その協力講座のひとつとして、大学病院薬剤部も院生のお世話することになりました。それに伴って、薬剤部長の市村藤雄教授から、小児科病棟で実習するための準備を命じられました。

 

小児科病棟に出かけると、小児科の小泉晶一教授から「古川さん、注射薬の製剤量計算を助けてくれないか」と依頼を受けました。

 

病棟での注射薬投与は、次のように行われます。

①医師は、患児の体重や体表面積に基づいて医薬品の投与量を計算し、カルテに記載

➁看護師は、カルテに書かれた投与量から、注射剤の投与量(製剤量)を計算

③医師(もしくは看護師)が、患児に注射剤を投与

 

具体的には、カルテに書かれた投与量(mg)から、実際に投与する製剤量(mL)の計算を確認してほしい・・・ということでした。確かに、投与する相手が小児であることから、“計算間違い” は大きな健康被害につながります。
 

これがきっかけで、「医薬品の投与量計算」に興味を持ちました。まず、気づいたのは、医薬品の投与量計算に関係する「単位」が多いということです。医薬品添付文書には、このような単位が踊っています。

 

そして、医師の処方時の計算間違いは、体重当たりの投与量(例、5㎎/㎏)で表示されているときに、薬剤師の調剤時の計算間違いは、散剤や液剤の有効成分含有量が、例えば、1%、50㎎/g、10㎎/mLのように表示されている時に、そして、看護師の計算間違いは、医師が処方した有効成分量(例、80mg)から製剤量(例、0.8mL)に換算するときに起きやすいことが知られています。

 

海外の状況を調べたところ、投与量の計算間違いは、問題になっていました。例えば、アメリカ合衆国では、看護教育用の教科書に「投与量計算」の章が設けられているだけでなく、医療職向けに「Drug Dosage Calcilation」というタイトルの書籍が数多く出版されていることが分かりました。

そして、日本には、このような書籍がないことも・・・

 

「計算脳トレーニング」という学習用ツールのweb 公開

2000年後半には、インターネット環境も整備されてきたことから、“web上で利用できる教育用資材づくり”という新しい試みに挑戦しました。

2007年、学習研究社の隔月刊誌「医療安全」の編集者(渡邊園子さん)と、e-ラーニングのコンテンツ「計算脳トレーニング」を企画しました。そして、2008年4月に
“STOPメディケーションエラー「ふるかわ先生の計算脳トレーニング」”として公開することができました (当時は、金沢大学病院に在籍)。


このサイトは、現在でも利用可能です。

医療系学生の実習用として、ご利用ください !!

※この時に作っていただいたイラストは、作者の「高橋幸雄」さんの許可を得て、本ブログだけでなく、講演時に使用させていただいています(感謝 !!)。

 

看護教育用教科書にも、投与量計算のページを確保

2006年5月にメディカ出版から発刊された、看護教育用の教科書「ナーシング・グラフィカ  臨床薬理学」に、「投与量計算についてのスペース」を確保していただきました

当時、担当していた看護学生の授業で、学生の“投与量計算力の不足”を痛感していましたので、その必要性を編集担当者の石上純子さんに相談し、ご理解を得て実現しました。

 

そして、計算力強化用のアプリとテキストも・・・

2008年にApple社の「iPhone」、また、2009年にGoogle社の「Android」・・・ “スマートフォン”と呼ばれる「高機能携帯用端末 (スマートフォン)」の登場で、通信の世界に大きな変化が始まります。

そして、2011年にNTTドコモ社が日本独自の機能を備えたを発売したことを機に、いわゆる “ガラケー” から “スマートフォン” への移行が急速に進みました。

 

スマートフォンは、携帯用パーソナル・コンピュータのようなものです。その普及に連動して、スマートフォンで利用できる有料・無料のアプリケーションが、次々と登場してきました。

そこで、新しい試みとして、紙媒体からデジタル化に積極的に取り組むメディカ出版と、投与量計算力を強化するためのスマートフォン用の有料アプリケーションと書籍の同時制作を進めることにしました。59歳の時です、

 

“医薬品投与量の計算”に特化した書籍は国内にはなかったので、看護師の卵でも購入しやすいよう、破格の価格設定でお願いしました。担当は、看護の教科書作りでお世話になった石上純子さんでした。

アプリケーション制作はデジタル部門の方々が担当してくださり、2013年に公開・出版できました。
残念ながら、有料アプリケーションの方は購入者が伸びずに、Apple社のシステム更新時に公開中止となりましたが、記憶に深く残る挑戦でした。

 

余談ですが・・・

2005年には、学研メディカルのご依頼で、①薬の基礎知識、➁薬と症状・疾患、③薬と看護・・・に関連した90項目のQ&Aから成る「ナースのための図解くすりの話」を執筆させていただきました。編集担当の石山神子さんのサポートで、2006年5月に出版された書籍を手にした時は、とてもうれしかった・・・です。
そして、翌2007年、韓国語に翻訳された本が学研から送られてきて、びっくり !! 

54歳で、予期せぬ “アジア・デビュー” でした。

 

どんなにいいアィディアを持っていたとしても、それを実現するためには理解者が必要です。2005年から2008年に出会った担当編集者の皆さんのサポートと出版社の理解が得られたこと、うれしく思うと同時に、とても感謝しています。

 

あと・・・小児科病棟を担当していた時の経験も、忘れられません。

 

余談の余談です・・・
もともと物書きが好きということはありますが、当時、これだけ原稿を書けたのは、コンピュータの文書作成ソフトのおかげです。職場と自宅で、office 2000 が利用できるようになり、作業効率が急上昇しました。

情報通信技術の進歩の恩恵を受け続けて、このコラムも楽に書けてます。