金沢大学病院で薬剤師として働いていた時、高岡市民病院(富山県)で、処方オーダ時、画面で副腎皮質ステロイドホルモン「サクシゾン」のところ、医師が誤って筋弛緩薬「サクシン」を選び、そのまま投与された結果、患者が亡くなるという事故がありました(2000年11月22日)。
もう少し、詳しく説明すると、医師はサクシゾンを処方するつもりで、オーダリングシステムの端末から“サク”の2文字をキーボードで入力。画面には、“サク”で始まる「サクシン」と「サクシゾン」が表示され、医師は「サクシゾン」を選択したつもりで、1行違いの「サクシン」をクリックして選択したとのこと。
この報道を見て、本院でも同じエラーが起こる可能性がある・・・と感じました。
実際に、本院のシステムで、「アル」と2文字入力すると、利尿薬(アルダクトンA)、消化性潰瘍治療薬(アルサルミン)など薬効が異なる26種類の医薬品が選択画面に表示されました。
そこで、2000年の年末、処方オーダ時に「入力する医薬品名の文字数と医薬品特定の関係」を調査しました。調査対象は、当時の金沢大学病院の採用医薬品(内服薬と外用薬)1664品目です。
この結果、次のことが分かりました。
①3文字入力で特定率が急に大きくなる(23%→52%)
➁4文字入力でも特定率はあまり大きくならない(52%→57%)
4文字入力でも特定率があまり大きくならない理由は、採用医薬品には、規格(含有量)や剤形(クリーム剤、軟膏剤、液剤)が異なるものが42%あることでした。
当時は、処方オーダリングに対する医師の理解も十分でないため、医師の理解を得るため、処方時の負担を考慮して「3文字入力」・・・というのが現実的と判断しました。
その頃、金沢大学病院では、新しいオーダリングシステムの開発中でした。そこで、このデータを院内会議で示し、安全管理上、「3文字(以上)入力」が必要であると提案しました。
さらに、新しいシステムはマルチウィンドウをベース(Windows 2000)にしていることから、処方時に医師に警告する支援機能「警告ウィンドウ」の導入を提案しました。
この機能では、「警告ウィンドウ」は目立つように大きなサイズとし、確認ボタンをクリックしないと次の操作に移れないようにしました。
この2つの提案はともに院内のシステム開発会議で了承され、新システムに取り入れられることになりました。そして、2001年2月27日、国内初の「3文字入力」と「警告ウィンドウ」機能を搭載した新しい処方オーダリングシステムが稼働しました。
実に、いいタイミングでした。
余談ですが、このシステムの紹介を含め、日本の大学病院での "medication error" の取り組みについて、アメリカ合衆国の臨床薬学雑誌に投稿し、掲載されました(2003年11月)。これは、日本人が書いた"medication error"に関する英語論文第1号かも・・・
余談の追加です・・・(笑)
「医療情報の標準化(HL7 : Health Level Seven )に関する国際会議で、イギリス国民保健サービス(National Heaith Service : NHS)に勤務する知人(イギリス人)から、「あの論文の英語は正しくないね」と指摘されました。
今なら、chatGPTが英語翻訳を助けてくれるのに・・・ね。
こちらは、タイミングが悪い !!
【参考記事】
このシステムの開発リーダーとの対談が、日経DI誌(2001年6月号)に掲載されています。