Part 3 は、「看護師と薬剤師の視点の違い」について。

「ちょっと、古川さん !!」と、後ろから声をかけられました。

その声は、

確か、消化器外科のS婦長さん。

振り返ると、そのS師長が、ちょっと怖い顔で立っていました。
 

釣り具とその色が目印だったんやけど

「カタボン(ドパミン注射剤)」のことやけど、

なんで、瓶からプラバックに変えたん !?」と、金沢弁で迫ってきました。

「プラバックやと困るんやけど。瓶に戻せんの」と、続きました。

 

日研化学が販売していた「カタボンLow注とHi注」は、

1999年7月9日に、容器が「瓶」から「プラスチック」に変わりました。

なので、1999年の夏頃のことです。

S師長の話では、「カタボンの瓶容器は、ガラス瓶自体と言うより、

釣り具の色(Lowは黄色、Hiは赤色)が識別上、とても重要 だったとのこと。

 

術後患者が多く、注射剤の使用も多い消化器外科病棟では、
「カタボン注」の釣り具とその色が仕事をする上での目印になっていたとのこと。


「カタボン注」の外袋がLowとHiで区別しやすかったので、薬剤師としては問題を感じていませんでした。

むしろ、プラスチック容器手になったことで、落としても割れないので良かったと思っていました。


 

そのようなことをS師長に伝えると、
「袋の中の容器、見たことあるん ?」と、返ってきました。

 

金沢大学病院では、1996年から注射薬処方オーダリングシステムと連動させて、注剤薬の個人別セットを行っていました。
(古川裕之他.注射薬処方オーダリングシステムを利用した注射薬個人別セット化の試み : [II] 注射薬個人別セットの運用と評価.病院薬学 22(6):628-636,1996)

 

「カタボン」注射剤については、外包装のままカートに載せていましたので、外袋の中の製剤は、見ることがありません。

外包装から取り出したプラスチック容器は、確かに、瓶容器の時ほど目立ちません。
S師長の訴えることが、よく理解できました。

製薬会社への改善策の提案

「製剤の改善」を臨床現場から製薬会社に提案するのは、薬剤師の仕事です。
 

プラスチック容器は、半透明。

ということは、容器に貼られているラベルの裏側が見えます。
そうだ !!

 

そこで、提案したのが、

ラベルの裏面全体を黄色(Low)と赤色(Hi)に着色することでした。

結果的には、この提案は部分的に受け入れられ、裏面に製剤名が印刷されることになりました。

製薬会社側にすれば精一杯の対応だったのかもしれませんが、安全対策としては中途半端です。
また、「w/v%」という濃度表示が、2004年6月の通知を受けて「200mg」と「600mg」と成分の総量表示となりました。

厚生労働省医薬食品局長通知「医薬品関連医療事故防止対策の強化徹底について」(薬食発第 0602009号、2004年6月2日)の別添1の3の(2)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000903676.pdf
 

余談ですが、
かなり後になって(2020年10月22日)、

お酒のラベルの裏に文字が印刷 されているものを見つけました。

「裏面にも印刷する」というアィディアがこんな所にも使われていることを知り、

うれしく思いました(“感謝”です !!)

※1989年6月発売の思い出ある「カタボン Low注 と HI注」は、

2019年6月14日に、「ドパミン塩酸塩点滴静注液200mg・600mgバッグ「武⽥テバ」」と名称変更、

その後、経過措置を経て、2022年3月31日に市場から姿を消しました。