アランボールビーチで偶然出会った秋山は、
少し身を乗り出すようにして話し始めた。
「アシュラムから離れて、ちょっとインド国内を旅してたんや。
その途中、あるゲストハウスでドイツの旅人に出会ってな。
そいつが、ゴアで聖者に会ったって言うんや」
哲は耳を傾けた。
――聖者? インドではよく聞く言葉だけど、
本当にそんな人物っているのだろうか。
出会える人なんているんだろうか。
秋山によると、その旅人は聖者と共に座って瞑想し、
不思議な体験をしたという。
悟りを得た聖者と瞑想を共にすることを「サットサン」と呼び、
その場に浸透する聖者のエネルギーを感じることができるのだ、と。
体験は人によって異なるが、確かに強い影響を受けるらしい。
――そんなことが、本当にあるのか?
秋山は話を区切ると、ビーチの右端にある小高い丘を指さした。
「その聖者が、あの丘の上にいるんや」
高さは六十メートルほどだろうか。
丘の中腹には小屋のような家がぽつぽつと建ち、
頂上までは三十分もあれば登れそうに見える。
――あの丘の上に、聖者が?
哲が丘を見つめていると、秋山が言葉を継いだ。
「ちょうど今、サットサンの帰りなんや。
毎日、夕方四時からやってる。
哲さん、よかったら明日一緒に行かへん?」
唐突な誘いに哲は思わず聞き返した。
「え? 明日?」
――聖者がそこにいる?
その人とサットサンができる?
今までそんな存在に会ったこともない……。
頭が追いつかず、ただ混乱していた。
だが同時に、心の奥で何かに惹かれている自分を感じてもいた。
――いや、俺は娘のためにここへ来たんだ。
もう瞑想とか自己成長とか、
どうでもいいと思ってここに来た。
なのに、聖者とサットサン・・・・
そう考えながら美香に視線を向けると、
彼女はにっこりと笑い、軽く言った。
「行ってきたら」
その一言に背中を押されるように、
哲は秋山へ頷いた。
「行きます。連れて行ってください」
翌日の十五時半、丘の下で待ち合わせ、
聖者に会いに行く約束を交わした。
