ルビーはヒースロー空港に到着すると、

予約していたレンタカーを受け取り、早速ストーンヘンジを目指した。

 

車を走らせることおよそ二時間。

驚くほど順調に目的地にたどり着いた。

「こんなにスムーズなのは珍しいな。俺の旅はいつもトラブル続きなのに…」
彼は苦笑いを浮かべていた。

 

 

到着すると、彼は友人ポールが語っていた

「腰かけた石」を探すため、遺跡の外周を歩き始めた。

 

注意深く目を凝らしながら三周もしたが、それらしい石は一つも見当たらなかった。

「やっぱりないのか…いや、ポールが嘘をついたとは思えない」


そう心でつぶやき、ルビーは外周から外れ、短く刈られた草の上に仰向けに寝転がった。

頭上には灰色の雲が重たげに広がっている。

 

ルビーは空を見ながら大きく息を吐いた。

「ふぅ~」

 

 

今回の旅の目的は、ポールが座ったという石を見つけること。

そしてできれば、彼が出会ったという“ダンブルドア校長に似た老人”にも会いたいと思っていた。

 

「でも、あれはポールに用意された出来事で、俺には必要ないのかもしれないな」
彼はそう思い直し、息を大きく吐いた。

 

 

 

ストーンヘンジに来るまで、ルビー自身はこの遺跡について何も知らなかった。

ただ名前を聞いたことがある程度で、興味の対象ですらなかった。

「せっかくだし、しばらく滞在して調べてみるか」
体を起こし、石の遺跡に向かって小さく声をかけた。
「ストーンヘンジ、また来るよ」

そうして彼は予約していたホテルへ向かった。

 

 

翌日から、ルビーはストーンヘンジを調べ始めた。

博物館のビジターセンターに通い、資料を読み漁り、専門家の話にも耳を傾けた。

調べれば調べるほど謎が深まっていく。

「誰が、どうやって、何のために、ここに建てたのか――まったく分かっていないなんて」

 

ストーンヘンジが建設されたのは、紀元前3000年〜紀元前1500年頃とされている。

当時はまだ車輪も普及しておらず、重機もない時代に、どうやって巨大な石を運んだのか。

 

なぜ遠くウェールズから石を持ち込んだのか。

どんな目的でこの場所に建てられたのか。

すべてが謎のままだった。

 

 

やがて彼は、科学では説明できないもう一つの説に出会う。

イギリス全土に流れるレイライン

――龍の道と呼ばれるエネルギーの交点が、まさにストーンヘンジであるという話だ。

 

そこに立つと人間の意識が変容する、と主張する研究者たちがいた。

「なるほどな…。やっぱりここはただの遺跡じゃない」
彼はそのグループとも交流し、さらに探求を続けた。

 

日を追うごとに、ルビーはストーンヘンジに心惹かれていった。

その後も外周を歩きながら、ポールが話していた石を何度も探した。

しかし最後まで見つけることはできなかった。

 

 

イギリス滞在の最終日、十五日目の午後。

ルビーは草原に寝転がり、曇天を見上げた。

空は来た時と同じ鉛色の空が重たそうに上を覆っていた。

風が頬をやさしくなぜていく。


「あの石を見つけることはできなかったな」

そうつぶやく。

 

それでも彼の心は満たされていた。

石を見つけられなかった代わりに、もっと大きな贈り物をもらった気がしたからだ。

 

科学でも解けない謎に包まれた遺跡。

数千年の時を超えて人類の想いが刻まれた場所。

そのロマンに触れ、自分も時の旅をしたような感覚だった。

 

 

哲は今回もルビー氏の不思議な旅に引き込まれていった。

ーーなんなんだストーンヘンジって。

今まで聞いたこともない遺跡だったが、現代の科学をもってしても解明できないものがある。

哲は行ったこともない、イギリスのストーンヘンジのある草原の中に飛んで

仰向けに寝っ転がって鉛色の空を眺めている。

 

 

「ありがとう」
寝転がったまま、ルビーは小さくつぶやいた。

 

その瞬間、どこからか声が響いた。
「またな」

 

「えっ?」
驚いて周囲を見回したが、誰もいない。

 

「空耳か…?」
そう思いながら体を起こすと、

頭の中に数枚の写真のようなビジョンが流れ込んできた。

 

それは鮮明な映像のようだった。

 

ルビーはそれが何なのか分からなかった。

もしかして、自分の未来のビジョンなのかもしれない。

 

その見えたビジョンの一つは、

日本の大きな会場で、自分が講演をしている姿だった。

「俺が人前で講演? まさかな」
苦笑しながら、ルビーは深呼吸をして立ち上がった。

 

他の見えた映像は何なんだ?

未来に起こることなのか?

 

彼には分からなかった。

 

 

そして遺跡に「またな」と言って

静かに歩き始めた。

 

そこで本は終わる。

 

 

その後、出版をきっかけに編集者から講演会の話を持ちかけられ、

全国を回ることになるとは、この時のルビーはまだ知らなかった。