フレンチクオーターにある酒場は音楽と切り離す事ができない。ジャズだけでなくブルース(Blues)、リズム・アンド・ブルース(R&B)、ローカル音楽のケイジャン(Cajun)やザイデコ(Zaideco)などのライブがバーボン通り(Bourbon Street)周辺のクラブ、バー、ラウンジなどで演奏されている。
俺達のような貧乏旅行者でも金をかけずにライブを楽しむことができる。ほとんどの店がドアを開け放していて大音量のサウンドが通りに響き渡っている。店によってはほとんど吹き抜きになっているので演奏してるバンドマンの姿もはっきり見えて、店の前でタダ聴きしている旅行者もたくさんいる。客寄せのためなのかジャズやロックのスタンダードナンバーを演奏している店も多く、ついつい足を止めてしまう。
とは言え店に入って酒を飲むとなると金額もかかってしまう。俺とK君はニューオーリンズに到着した日の夜にとっておきの店を発見した。生ビールをプラスチック製のコップに入れて飲ませてくれる店だ。バーボン通り周辺には同様の店が何軒かあったが、俺達が目をつけた店は料金も一番安く(レギュラーサイズの缶ビールの量ぐらいで1ドル50セント)、店の雰囲気や店員の対応も気に入った。店といっても本職はTシャツや小物などを売っている土産物屋で、酒を飲むカウンターに座席は無く、7,8人も入れば満員になってしまう。
フレンチクオーターはアメリカでは珍しく、酒を飲みながら歩いていても何のお咎(とが)めも無い。俺とK君はこの店を根城にして、気が向けばビール入りのコップを手にして周辺のライブの店の前まで行って、生演奏に聴き入った。
この店には滞在中毎晩のように行っていたし、日に3度、4度顔を出すこともあったので店員ともすっかり親しくなってしまった。
そのうちの一人が前年(2001年)にエチオピアから来たばかりの黒人で、俺達が店に足を踏み入れるとニコッと笑って勝手に生ビールを注ぐようになってしまった。彼は黒人にしては背が低く(165センチくらい)いつも派手なダボダボのTシャツを着ていた。日本人に興味があるらしく、俺達がカウンターでビールを飲んでいると片言の英語でいつもしゃべりかけてきた。
今でもあの陽気な彼の笑顔が忘れられない。