先週末から素晴らしい演奏会を引き続き聴くことができました。せっかくなのでこちらに記録しておこうと思います。

2023年11月25日
【濱田芳通&アントネッロの「メサイア」



17名のソリストと17名のバロックアンサンブルによる、メサイアの演奏。濱田さんは特にルネサンス音楽において造詣が深く、フレージングの解釈や、歌手にあてて特筆した装飾などは普段聴き慣れてるメサイアとは少し違った面もある。バロックアンサンブルのアントネッロのプロフィールに、“作品が生まれた時のスピリット」を大切に躍動感、生命力が備わった、音楽の持つ根源的な魅力を明らかにしてきた。“とあったが、それを丁寧に行うことで本番の演奏の印象は、まさに“生きている音楽“でした。通例、慣習と我々が無意識のうちに心地よくなっているものに対して、良い意味で別のものを提起してくださったような、「こんなんもあるで?」と。知り合いの歌手が数名参加していたのも、なんとも誇らしげでした。ソリストの皆さんの演奏が素晴らしいのはさることながら、コーラスも素晴らしい演奏を聴かせて下さいました。私も何度か歌ったことがあるのですが、これまでの中で最も各声部の形と動きが見えてきて立体的に音楽の中に身をおける演奏でした。最後はスタンディングオベーションされる方も多数おられて、関西のクラシック音楽界が熱気を帯びてることに喜びました。



2023年11月26日
【関西二期会第97回オペラ公演「カルメン」】



会場は初めての吹田メイシアター。満員のお客様でしたね。カルメンさんの手脚の長いこと!身のこなしの美しさ!また歌唱もとても音楽的で素晴らしかったです。他のソリストの皆さんも豪華で、終始楽しんで聴かせて頂きました。合唱(児童合唱も含めて!)生き生きとされていたことも印象的。「カルメン」は合唱が多く、良い曲も沢山。女性合唱の、タバコ工場から出てくる合唱と、ケンカの合唱は、ヨーロッパのオペラ合唱団員オーディションで課題曲になることが多く、「何度も歌ったなぁ…」と懐かしくなりました。演出も納得のいく解釈と内容でした。前日同様、関西のオペラ界も魅力的だなぁと感じました。



2023年11月28日
【三井ツヤ子リーダーアーベント〜喜寿に寄せて 喜びと悲しみと〜】



会場は、京都府民ホールアルティ。恩師の三井ツヤ子先生のリサイタルのリーダーアーベントでした。リーダーアーベントとは、ドイツ語で Lieder(歌の) Abend(夕べ)、という意味。今年のプログラムは、ハイドン、中田喜直、コープラント、ラヴェル、ヴォルフ。最初のハイドン、この作品は私も昔勉強し、演奏会で歌ったことがありました。久しぶりに聴きましたがやはり名曲、名作。ナクソス島にひとり置き去りにされたアリアドネが、愛するテゼウスを想って嘆き、悲しみ、最後は恨みまでぶつけます。もちろん音楽は多様に変化し、ときに美しく、ときに激しい。。当時の私もひと通り勉強したはずなのに…昨夜の演奏はその印象を軽々と塗り替え、「あれぇ、、これほどにドラマティックな作品だったのか…」と実感しました。続く中田喜直、コープラント、ラヴェルもそれぞれ素敵なところがありました。そしてこの夜の最たるみ衝撃は、最後のヴォルフ四曲。ゲーテの「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」の中のこの有名な詩には、多くの作曲家が音楽を付けています。サーカス団にさらわれた良家の娘ミニョンは、ヴィルヘルムに助けられます。孤独な人生のなかで出会ったヴィルヘルムに密かに特別な感情を抱いた彼女ですが、どうしても彼に気持ちを伝えることはできません。私も歌ったことはありますが、どうしてどうして、当時の私は、昨夜の演奏のほどには楽譜から音楽とドラマを読み取れなかったなぁ、、と自分の未熟さを知るばかり。先生の美しい響きを纏った温かいお声は、主人公のミニョンの危なげに虚ろう感情を自在に表現するのです。先生の歌は特に、自由に動きます。その動きにしっかり反応し、完璧に寄り添い、そして目指す先までも理解して導くピアニストの久保千尋さんも素晴らしかったです。アンコールは、この道」、「小さな空」、「落葉松」、「ドンファンのセレナーデ」、「死んだ男の残したものは」。
まだ三井先生の歌を聴いたことがないという方には、是非一度聴いて頂きたいです。3月13日に帝国ホテル、6月30日には高槻で演奏会をされるので、是非お出かけください。