優しい人 | Weather Report

優しい人

「読んでみて、きっと面白いと思う。」
困ったような顔で古びた文庫を差し出す。
「こっちは走りたくなる。」

初めて家に行ったとき、帰りぎわ彼は私に2冊の本を手渡した。
『ものぐさ精神分析』
『遅れてきたランナー』

彼の心がもうどうしようもないくらいに壊れてしまっていて、それが周りの人すべてを完璧に欺くまでに完成された演技だとしても、いつまでも騙していて欲しかった。
どうしてそれが私だったのか、今ならよくわかるし、そこに意味だの救いだのがあったのかなんて今更考えたくもないけど。強くはなったよ。隠された悪意を注意深く拒むこと、そうだよね?

399ページ(その数字は私と彼にとってある共通の)に頼りなさげに引かれた赤い線。

『未来とは修正されるであろう過去である。』

優しい人、人に憂うと書いて優しいと読むんだね。たくさんたくさん泣いた人。優しい人は強い人。力ではなく優しさで勝るんだよね。

私を傷つけた優しい人。もう二度と会うこともない。話すこともない。ただただ御幸せを祈る。君が嫌いだと言っていた素敵な朝がきますように。暗い夜が消えますように。

元気ですか。元気です。