「震度5だってよ」
スマホから情報をとった若者が言う。
今のが震度5??冗談でしょ?もっとでかかったよ!と思うのと同時に、なんだ震度5くらいかー。意外とたいしたことなかったんだな。と思った。つまり「よくある地震」として誤認してしまった。あまりにのんきなので魚屋で蛤の特売品を買ってしまったほどである。
事態が尋常ではないことを知ったのはJRの駅に着いたところである。警察官の数が半端じゃない。次々に応援要請に応えるかのように新たな警官隊が到着し敬礼している。この時点では矢吹は通り魔殺人事件的なものが発生したのかと身構えたほどである。
駅構内に入り耳に突っ込んだipodのイヤホンをはずすと、
「地震の影響で中央線の運転は全線見合わせになっております。復旧のメドは全く立っておりません。順次バスで振り替え輸送を実施いたしておりますのでそちらをご利用下さい。なお、駅構内は大変危険ですので速やかに駅係員の誘導に従い、駅南口の方へ非難をお願いいたします。繰り返します。地震は未だ強い余震が予想されており極めて危険な状況にあります・・・」
え?さっきの地震ってそんな大きかったっけ??半分以上ポカン顔で矢吹は上部の巨大モニターを見上げた。なぜか毛布がかけられていて下から覗き込まないと内容が見えない。
矢吹はそのとき生まれて初めて、こころの底から恐ろしいと思う警報を見た。
「大津波警報」が日本全土を覆いつくしていた。日本全土の沿岸部が紅に染まっていた。
色が「赤」ってことは相当ヤバい部類の警報であろうことは想像に難くない。問題は「大津波」の定義だ。乱読家・映画好きの矢吹にとって「日本沈没」「サバイバル」「ディープ・インパクト」等はディザスター物の基本として押さえている。あの時の津波の高さは・・・高さは・・・少なくとも自由の女神アウト。富士山も一部を残してアウト。
えーーーーここは八王子。。。自宅は国立。。。
落ち着け!まず家族と会おう!国立の家に帰ろう!
標高は八王子のほうが国立より高いので、こういうのを論理の飛躍といいます。パニックになっている人の判断力って映画みたいにいかないですね。
その振り替え輸送バスとやらに乗ろうじゃないか!近くの駅員に聞いてみると、
「八王子―日野―立川と乗り継いで、そこでどうするか判断してください」
…だそうだ。
JRで4駅15分だぞ??
誰がミジン切りにしろとお願いした??普通に乗り継いでも立川まで、1時間じゃんか!!
甘かった
日野に着くまでに1時間かかった。すでに日没。立川行きのバスを待つこと一時間。寒くて一人でその場で、踊り狂っていた。怪訝そうな顔をしている人もいたが知ったことか。春先取りファッションで出てきた俺には、今日の気温はめちゃめちゃ寒いんだよーーーーー!!
「立川行きのバスは本日は終了しましたー」
素姓の知らない女性がそこらじゅうにふれてまわる。1時間待たせてバスは終了しただとう?こういう筋の通らない話が大嫌いな「暴れはっちゃく」のお父さんのような性格の矢吹はこの時点でかなりキレていた。
「おい。モノレール運転再開したらしいぞ。」
理由はよくわからないが、地震以降耳が超人的に聴こえるようになった矢吹の耳は、雑踏の中のこの一声を拾った。もう少し鍛錬すれば耳だけならウルトラマンクラスかもしれない。
「すいません。モノレール動き出したみたいなんですけど、どうやって行けばいいんですか?」
高幡不動行きのバスの運転手に聞いてみた。
「いや。これ高幡不動行きだから。」
んなこたあ、前にも横にも書いてあるし俺だって字も読める!!
「いや、そうじゃなくて、今JR止まってるじゃないですか?バスでモノレールの乗り場、もしくは国立方面に帰りたいんですけど。」
「いや。これ高幡不動行きだから。」
…こういう時には10秒数えるんだ!怪物くんが言ってた。もしくは質問の趣旨が理解できるだけの教育を受けて来なかったのかもしれない。ここは大きな心で…
「あんなああ。今日本がガタガタになるくらいの大震災起こってるわけよ!!帰宅難民死ぬほどでてるわけよ。てめえの仕事何??あんたの耳についてんのはどこと連絡をとるためのもんよ???あ“あ”―――???今すぐ会社に連絡とれ!お前がせんなら俺がやっちゃるわい!!貸せやコラ!!」
小競り合いになって乗客に止められた。
結局モノレールには歩いて30分。そこから立川に出て、立川から歩いて帰った。電車で4駅15分のはずが、ロスタイムを入れると6時間の長旅となった。
久しぶりに家族と顔を合わせた時(6時間ぶり)思わず一人一人とハグした。全員無事で本当に良かった。
リビングのTVで流されていた映像を見たときに背筋が凍りつき、何か大掛かりなドッキリでも仕掛けられているような気持ちがした。一瞬で津波に飲み込まれる街。重油に引火して火の海と化した街。押し流される貨物船に飛行機の数々。自動車なんてミニカー同然の扱いだ。
挙句余震は一晩中続いたばかりでなく、人間をあざわらうように新潟、栃木、千葉ところころと震源地を変え、緊急地震速報で「神奈川」名指しのときは玄関のドアを開け放ち家族と一緒に揺れが収まるのをひたすら祈った。
結局一睡もできずに朝を迎え、ぐったりとしていると妻が
「ふあああ。あれ?まだ起きてるの?いいかげん寝たらあ??」
と言い残して二度寝しに戻った。
俺。一晩中家族を守っていたつもりなんすけど?あなた起きたら交代してもらおうかなーって。あんま意味なかったっすかね?
「東京大空襲などの折、肝が据わっていたのは男性よりむしろ女性である。」
俺はこの説を全面的に支持する。
【続く】
スマホから情報をとった若者が言う。
今のが震度5??冗談でしょ?もっとでかかったよ!と思うのと同時に、なんだ震度5くらいかー。意外とたいしたことなかったんだな。と思った。つまり「よくある地震」として誤認してしまった。あまりにのんきなので魚屋で蛤の特売品を買ってしまったほどである。
事態が尋常ではないことを知ったのはJRの駅に着いたところである。警察官の数が半端じゃない。次々に応援要請に応えるかのように新たな警官隊が到着し敬礼している。この時点では矢吹は通り魔殺人事件的なものが発生したのかと身構えたほどである。
駅構内に入り耳に突っ込んだipodのイヤホンをはずすと、
「地震の影響で中央線の運転は全線見合わせになっております。復旧のメドは全く立っておりません。順次バスで振り替え輸送を実施いたしておりますのでそちらをご利用下さい。なお、駅構内は大変危険ですので速やかに駅係員の誘導に従い、駅南口の方へ非難をお願いいたします。繰り返します。地震は未だ強い余震が予想されており極めて危険な状況にあります・・・」
え?さっきの地震ってそんな大きかったっけ??半分以上ポカン顔で矢吹は上部の巨大モニターを見上げた。なぜか毛布がかけられていて下から覗き込まないと内容が見えない。
矢吹はそのとき生まれて初めて、こころの底から恐ろしいと思う警報を見た。
「大津波警報」が日本全土を覆いつくしていた。日本全土の沿岸部が紅に染まっていた。
色が「赤」ってことは相当ヤバい部類の警報であろうことは想像に難くない。問題は「大津波」の定義だ。乱読家・映画好きの矢吹にとって「日本沈没」「サバイバル」「ディープ・インパクト」等はディザスター物の基本として押さえている。あの時の津波の高さは・・・高さは・・・少なくとも自由の女神アウト。富士山も一部を残してアウト。
えーーーーここは八王子。。。自宅は国立。。。
落ち着け!まず家族と会おう!国立の家に帰ろう!
標高は八王子のほうが国立より高いので、こういうのを論理の飛躍といいます。パニックになっている人の判断力って映画みたいにいかないですね。
その振り替え輸送バスとやらに乗ろうじゃないか!近くの駅員に聞いてみると、
「八王子―日野―立川と乗り継いで、そこでどうするか判断してください」
…だそうだ。
JRで4駅15分だぞ??
誰がミジン切りにしろとお願いした??普通に乗り継いでも立川まで、1時間じゃんか!!
甘かった
日野に着くまでに1時間かかった。すでに日没。立川行きのバスを待つこと一時間。寒くて一人でその場で、踊り狂っていた。怪訝そうな顔をしている人もいたが知ったことか。春先取りファッションで出てきた俺には、今日の気温はめちゃめちゃ寒いんだよーーーーー!!
「立川行きのバスは本日は終了しましたー」
素姓の知らない女性がそこらじゅうにふれてまわる。1時間待たせてバスは終了しただとう?こういう筋の通らない話が大嫌いな「暴れはっちゃく」のお父さんのような性格の矢吹はこの時点でかなりキレていた。
「おい。モノレール運転再開したらしいぞ。」
理由はよくわからないが、地震以降耳が超人的に聴こえるようになった矢吹の耳は、雑踏の中のこの一声を拾った。もう少し鍛錬すれば耳だけならウルトラマンクラスかもしれない。
「すいません。モノレール動き出したみたいなんですけど、どうやって行けばいいんですか?」
高幡不動行きのバスの運転手に聞いてみた。
「いや。これ高幡不動行きだから。」
んなこたあ、前にも横にも書いてあるし俺だって字も読める!!
「いや、そうじゃなくて、今JR止まってるじゃないですか?バスでモノレールの乗り場、もしくは国立方面に帰りたいんですけど。」
「いや。これ高幡不動行きだから。」
…こういう時には10秒数えるんだ!怪物くんが言ってた。もしくは質問の趣旨が理解できるだけの教育を受けて来なかったのかもしれない。ここは大きな心で…
「あんなああ。今日本がガタガタになるくらいの大震災起こってるわけよ!!帰宅難民死ぬほどでてるわけよ。てめえの仕事何??あんたの耳についてんのはどこと連絡をとるためのもんよ???あ“あ”―――???今すぐ会社に連絡とれ!お前がせんなら俺がやっちゃるわい!!貸せやコラ!!」
小競り合いになって乗客に止められた。
結局モノレールには歩いて30分。そこから立川に出て、立川から歩いて帰った。電車で4駅15分のはずが、ロスタイムを入れると6時間の長旅となった。
久しぶりに家族と顔を合わせた時(6時間ぶり)思わず一人一人とハグした。全員無事で本当に良かった。
リビングのTVで流されていた映像を見たときに背筋が凍りつき、何か大掛かりなドッキリでも仕掛けられているような気持ちがした。一瞬で津波に飲み込まれる街。重油に引火して火の海と化した街。押し流される貨物船に飛行機の数々。自動車なんてミニカー同然の扱いだ。
挙句余震は一晩中続いたばかりでなく、人間をあざわらうように新潟、栃木、千葉ところころと震源地を変え、緊急地震速報で「神奈川」名指しのときは玄関のドアを開け放ち家族と一緒に揺れが収まるのをひたすら祈った。
結局一睡もできずに朝を迎え、ぐったりとしていると妻が
「ふあああ。あれ?まだ起きてるの?いいかげん寝たらあ??」
と言い残して二度寝しに戻った。
俺。一晩中家族を守っていたつもりなんすけど?あなた起きたら交代してもらおうかなーって。あんま意味なかったっすかね?
「東京大空襲などの折、肝が据わっていたのは男性よりむしろ女性である。」
俺はこの説を全面的に支持する。
【続く】