ジプシーおばさんのお告げ

lonely planetのwestern europe on a shoestringをベルギーの地図がちょいと見たくて久々に広げてみた。lonely planetのトラベルガイドが我が家には結構いろいろそろっている。

このガイドブックから1枚の紙切れが落ちた。
偶然にもこの紙切れについて、今週バンコクで友達に話しをしたところだったものだから不思議な気分になる。

ジプシーおばさんのお告げ
インペラトゥリーチェ(女王)

と書かれた紙切れだ。
東京のJRの駅の公衆トイレで買ったティッシュペーパの中に入っていたものだ。

多分このガイドブックを購入したのは1998年くらいだから、10年前だ。西ヨーロッパ諸国のトラベルガイドで、ユーロという通貨が存在しなかった頃だ。

この分厚いガイドブックをもって亡夫と旅にでたのが、1998年夏。旅はひとりでと決めていた私が初めて道連れと一緒に。- 本棚を探せば、二人でとりとめなく記したトラベルジャーナルがあるはずだ。このトラベルジャーナルがボリューム1となって、私はてっきり、一生かけて何冊ものトラベルジャーナルができあがるものだと思っていた。

ロンドンからアテネまで片道切符で飛行機に乗り、アテネから船でエーゲ海を渡った。美しい島キオス島を経由してトルコに渡り、トルコをバスで北上しイスタンブールへ。イスタンブールからはバスで国境を越えアテネに戻った。アテネからコーフ島へ向かい、そこから船でイタリアのハイヒールのかかと部分であるブリンディシへ。ブリンディシから電車でナポリ、船でカプリ島、ナポリからフレンツェ/トスカーナへ、そしてベニス。その後電車でフランスに向かい、ニースとカンヌを訪れ、パリに出て、パリからユーロスターでロンドンに戻った。バルセロナまでいくつもりだったのに、時間切れになってしまったのだ。亡夫の友人の両親が結婚25周年のパーティを開くことになっていて、招待を受けた以上、欠席はできないというのが亡夫の意見だった。私は嫌々従い、イギリスの典型的な”ミドルクラス”のパーティでへそをまげ、あくびをしていたのを覚えている。星の数ほど繰り広げられるイギリスのミドルクラスのパーティだ。

我々が”I love you"というビッグワードを使う直前の話しだ。

亡夫の方が、簡単な外科手術をしなくてはならなくなったので私は英国北部の彼の実家に彼を残して旅に出た。彼の母親からは、『いかにもあんたらしい』と皮肉とも賞賛ともつかない言葉を頂いたが、私が深夜バスに乗るために村を出る時、彼の両親は泣いてくれた。

彼は片足をひきずって私を深夜バスの乗り場まで送ってくれた。あんなに引きちぎられる思いがしたことはない。旅が終われば日本に帰ることになっていた。もうなかなか会えなくなる。けれど、(笑)どうしてもプラハが私を呼んでたのだ(笑)別れ際に亡夫がコドモのように泣きながら"I love you"と言った。それを聞いて私もたがが外れたようになって泣いた。

私はまたlonely planetをバッグに入れて、ロンドンからオランダのEindhovenまでバスで移動した。Eindhovenから電車でプラハに向かった。プラハに向かう途中でBambergにいる知人を訪ねたいと思っていた。フランケン地方を旅し、予定通りBambergの知人を訪ね、美しいドイツの収穫のシーズンを旅している間に、時間をかけてゆっくりゆっくり"l love you"という彼の言葉を咀嚼した。ほんとだかどうだか定かではなくなるとドイツの鉄道の駅から亡夫に電話をかけて、彼から同じ言葉を聞いた。

プラハは寒くなり始めていてとても美しかった。セントラルヨーロッパの美しい季節と景色の中で、生まれて初めてきいたthe big wordとじっくり向かい合えたことは人生の財産なのかもしれない。

私は財布から紙切れを出して見つめた。

ジプシーおばさんのお告げ
インペラトゥリーチェ(女王)

と書かれた例の紙切れだ。

そこにはこう”お告げ”が書かれいてた。

今、つきあっている人との安らぎのある家庭を築けるでしょう。また、相手のいない人は結婚につながる出会いがあるでしょう。

占いも、結婚も信じない私が、なぜかこの紙切れを東京のJRの駅でみた時に、鼻先がくすぐったくなって不思議な南風が吹くような気がして紙切れを捨てきれず財布にいれたのだった。

この後、私は日本に帰り、亡夫はイギリスに残った。1年ちょっとして、私はまた渡英し、亡夫と結婚した。ジプシーおばさんのお告げは当たった。生まれて初めて”当たる”と思ったスーパースティションだった。
でどころが、JRの公衆トイレで購入したポケットティッシュの中なんて、全然いかさないのは重々承知だ。

あの年から10年経った。亡夫が亡くなって6年経った。

彼と出会ってから彼が亡くなるまでの月日が、彼が亡くなってからの月日より短くなった。彼を知っている人はもう私の周りに誰もいない。

そしてひょんなところから昨晩またジプシーおばさんが現れた。”おばさん”は"Germany/Nuremberg”のところにWyrzburg-Bamberg間の時刻表と一緒になぜかはさまっていた。今回、ジプシーおばさんはどんなメッセージを私に送っているのだろう?