また、肌を重ねた。
何度も何度も、唇を重ねた。
最後までしてないのに、一瞬、意識が舞った。
のめりこんでいるのはどちらだろうか。
相手が私の肌を手放せなくなったのか。
私が、届かない想いに負けてしまっているのか。
私の心と体は裏腹だ。
体はその人に抱かれて、感じているのに、
心では、ずっと焦がれていた別の人を思っている。
決してふたりを重ねている訳じゃない。
私の体を愛撫するその手は確かにその人のもので、
私に愛してると囁く声も、霞む視界に見える眼差しも、確かにその人で。
でも、心の中で、確実に大きくなる気持ちが、存在が……ある。
これは恋だ、と、言えてしまうものがある。
夢に出てくるのは、恋い焦がれる彼。
でも目の前に居るのは、傷を分けあった、いわば共犯者。
同じ背徳を味わってしまった、共犯者。
戻れない予感がして、怯える。
このまま、手の届く快楽に溺れそうで……自分が酷く浅ましく感じられる。
実際、浅ましいのだろう。ここから逃れられずにいるのだから。
相手の傷を見てしまうと、私は逃げられなくなる。
その傷を癒さなければ、と、腐った正義感が働いてしまうのだ。
それが破滅の道だと知っているのに。
私の胸に顔をうずめる相手を、両手で包む。
まるで、母親になったような感覚だ。
大きな子供をあやしているような、不思議な気分になる。
それと同時に、守ってやらなければ、という母性が働いて、穏やかな気持ちが湧いてくる。
その本能で、私は逃れずに、この状況に甘んじる。
自ら、望む方向とは別の方向へ、少しずつ歩んでいる。