「指先まで愛してほしい

 言葉なんかなくてもいい

 ふたりの吐息だけで」


昔聞いたフレーズ。

言葉通り、足の爪先まで愛されたことがある女性は、以外と多くないと思う。

頭がぼぉっとして、細胞が痺れていくような、あの感覚を味わったことがある女性は、どれくらい居るんだろう。


指先まで愛されたら、もう抗えなくなる。

相手が自分に傅いているような錯覚を覚えても、実はそれは、

自分が相手から逃れられなくなるシグナルなのかも知れない。


汚い、と感じる部分を口に含まれるときの、不安と罪悪感。

そのマイナス感情があるからこそ、増強される、未知への期待。

そこに、蕩けんばかりの感覚が眠っていると、意識しないところで悟っているから。

女は怖い生き物だ。



アダムの肋骨から作られたイヴ。

女性は男性の一部だった。

だから、人は恋をする。

ひとつになるために、惹かれあう。

男は、自分の肋骨を取り戻すために、たった一人の運命の女を探す。

女は、自分が還るべき胸に身をうずめるべく、たった一人を探す。

出会って、違って、別れて、また出会って……

本当に、フィットする相手なんて居るのだろうか。

求める中で、削れたり、変形したりしていないのだろうか。

永遠にフィットしない、そんな事、ないのだろうか。


追い求める事は、幸せなんだろうか。



土から作られたアダムが土に還るのならば、

女の還る場所も、土なのではないだろうか。

男の胸ではなく。



私は、それで構わない。

きっと、土に還る瞬間は、同じだから。

お互い、巡り合わずに還るのだ。

誰にも奪われず。

それはそれで、きっと幸せだろう。


元から互いが互いの一部なのだ。

もう、それだけで十分だ。