『うさんくさい奴』 | 学生団体S.A.L. Official blog

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トイレや人の足の臭いが香ばしく鼻腔をくすぐる夜行列車に揺られて7時間。
この砂漠の街 ジャイサルメールに到着して、僕は彼に出会った。

「My name is Akio!」

人懐っこい笑みを浮かべながら、ちょくちょくの日本語と流暢な英語で話しかけてくるホテルの従業員。
痩せっぽっちで、髪はセンター分け。
赤いTシャツがトレードマークのインド人だ。
二回に一回はジョークを挟んでくる彼について、寝不足で不機嫌だった僕が最初に抱いた感想は 『うさんくさい奴』 だった。

そして、彼に対する疑惑は彼と顔を合わせる度に募っていった。
朝っぱらから火起こしを手伝わされるし、持っていた煙草やお菓子は取られる。
勝手に部屋に入ってきては、話しかけてきて中々寝かしてくれない。しかも容赦なくいじり倒してくる。
にも関わらず、無駄に気遣いが出来て、優しすぎる。
これは、どう見てもうさんくさい。
油断させといて、後で高額なチップを請求してくるやつだな、と僕は早速警戒心を全開にして、少しずつ距離を置き始めようとした。

インド人は商売上手なのが常だからだ。簡単に信用しちゃいけない。

相変わらずのハイテンションで近づいてくる彼に対して、僕は疲れてるから、と寝たふりを決め込む。
よしよし。うまい具合に距離が置けそうだ。

しかし、その日の夕方のことだ。
ラクダに乗って砂漠に着いた僕に彼は、自分の持っていた酒と煙草を上司に見られないようにこっそりとくれた。
そして、「ありがとう」と、疑心暗鬼に礼をした僕に言ったのだ。

「We are friends. Friend don’t need "thank you"」
だから、ありがとうは言わないでくれ。

それから、彼は上手なウィンクを一つして、僕に自分の貧しい家族のことや、生き様、また愛についてなんかを語ってくれた。

酒を煽って、煙草をふかしながら語る彼は、なんだか最高にクールだった。

そして、進路や将来について悩む僕に彼は笑いながら魔法の言葉をくれたのだ。

「Enjoy your life!」
神様が私たちにくれた時間はとても短いのだから。楽しまなくちゃ神様に申し訳ない。

とても簡単な言葉だったけれど、その時の僕の心にはまるでぴんっと張った弦を弾いたみたいに、強く響いた気がしたのだ。
それから、僕は彼とかたい握手を交わして、酒を飲み干した。
その頃には、もうすっかり警戒心は溶けてなくなっていた。
アキオにチップをぼられるなら、それもそれで悪くないか。
そんなことさえ考えて、喜んで彼のだるいジョークも、親切も受け入れようと思った。

すぐに態度が変わりすぎかもしれない。けれどまあ、それは仕方ない。
インド人は人と仲良くなるのが上手なのが、常だからだ。拒んでばかりじゃつまらないと思うんだ。


今回、3度目のインドを経て、改めて考えることがある。
インドを歩けば、いろんな人が声をかけてくる。
物乞いやお金目当ての人が多いのは確かだ。
その中でも多くの人が騙してくるのも事実だし、物乞いを商売のようにしてする人がいるのもまた事実。
けれど、だからと言って彼らを最初から嫌って避けてしまうのは悲しい気がする。
実際にそれだけ、彼らが貧困にあえいでいるのも事実だと思うのだ。
そして、貧困に置かれながらも、チップ一つ求めずに最良の接客をしてくれるホテルの従業員がいるのも、また事実だと思うからだ。

Enjoy your life!
砂漠で僕にそう言ったAkioなら、誰が話しかけてきてもきっと、笑顔でジョークの一つや二つを飛ばすだろう。
何故なら彼は、『うさんくさいほどにいい奴』だから。


文責:企画局5期 園田浩大