【ユーラシア横断スタツア:インド、ラダック地方レー】道すがら | 学生団体S.A.L. Official blog

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小鳥のさえずりが朝を告げるかのように、ゲストハウスには太陽のほのかに明るい光が差し込んでいる。


インド北部ラダック地方レー。ここにはチベット民族が暮らし、独自の文化を形成しながらも近年グローバル化とともに観光地化の一途をたどる。それに伴う様々な文化の流入は、その面影を徐々に薄れつつさせる。 海抜3500mの高さに位置し、乾燥した気候と肌色の山々に囲まれたこの辺境の地に、私を含めた観光客を容易には足を踏ませない。そんな風景が私を包み込む。


だが、インドの首都デリーからダライ・ラマ14世が依拠するダラムサラ。そしてダル湖に浮かぶハウスボートが長旅の疲れを癒す、ジャンムーカシミール州シュリナガルからの陸路の歩み。そんな旅を経てきた私たちにとって、ここは言わば長旅の終わりを告げるゴールであり、この地は私たちをその豊かな自然に溶け込ませるかのように受け入れてくれている。そんな気がする。


空路では味わえない人との出会い、先の道への進路を阻むハプニング、また走り続ける中で代わる代わる変化する美しい景色がこの旅には存在した。そして私たちが経験したこの旅路は、決してバックパックでないと進むことができなかったように思う。


シュリナガルからここレーまで約20時間のジープでの拘束。13,4時間ほどで到着すると言われた当初とのズレも、陸路での移動にはつきものだ。ただその道々は舗装されておらず、ガタガタと揺れる車体が長時間続いたとなると、このルートをもう一度味わうことは遠慮したい。


車輪のわずか数十センチ横にあるのは安危を分ける一筋の境。余談も許さない緊迫感が、ドライバーの強く握りしめたハンドルから感じ取れる。そんな道中に異変は起こった。助手席に座る私の後方に、パタパタパタと不可解な音が鳴り渡る。パンクである。車内から
降りることを余儀なくされた私たちには、長旅の疲れも重なり絶望感が漂った。


目の前にあるのは砂煙を舞いあげる終わりの見えない道、道。そこに2台の車が停車した。その2台から降りてきたのは3人のチベット人。同じくレーに向かってるという。私たちのドライバーは彼らに歩み寄り、交渉を終え、私たちは車を乗り換えることになった。


金はもちろん払ったものの、どこか懐かしい助け合いの精神を感じた。チベット人たちの頬には微笑みと、それによって刻まれたであろう深いシワが浮き上がる。出会いと別れ、そしてその繋がりを示すかの様に新たな出会いは現れる。


バックパックがもたらしてくれる陸路の旅は、日々増えていくその重さを表すかのごとく、人への感謝と尊敬の念を私の胸に押しつける。車内のバックミラーに垂れ下がるダライ・ラマの写真は、高くそびえ立つ山々に消えゆく夕陽の光に照らされる。そして再び車体は揺れ始め、チベット仏教の象徴である彼の写真にくっつく鈴のチリンチリンという音が、車の揺れるガタガタという音と重なった。


【文責:広報局 瀬谷健介】