4歳でピアノを習い始めた私。

 

 

普段から自宅でピアノの先生をしていた母から、

 

 

「ピアノ習ってみない?」と聞かれて、なによりもまず最初に思ったことは、

 

 

あの、月謝袋を先生に渡すやつ、ついに自分もできるのか!!

 

 

でした。それから何十年も経た今でも、あの瞬間のときめきを思い出せます。

 

 

月謝袋に、なぜそこまでときめいていたのか、今となってはわかりません。

 

 

しかし、私のピアノの原点に「月謝袋」があることは間違いない。

 

 

残念ながら、バッハの厳粛なバロック音楽でも、ベートーヴェンの情熱的なピアノソナタでも、

 

 

ラヴェルの古典的な中にも洗練された和音の響きでも、なく、

 

 

私を何よりもピアノに弾きつけたのは、夏目漱石でした。

 

 

いや、夏目漱石を入れる袋でした。

 

 

吾輩はピアニストである。名前は誰も興味ない。

 

 

しかし、なんといっても所詮は幼稚園児。大事な夏目漱石月謝袋を持たせてもらえるわけもなく、

 

 

お月謝は大人たちの中だけでやり取りされることに。

 

 

そして、教室が変わって、今度は銀行引き落とし。

 

 

風情も何もあったもんじゃないぜ。

 

 

風情???

 

 

私を惹きつけてやまなかった月謝袋。若き私には、それとはついぞ縁がなかったのです。

 

 

サラピ