知床、カズ・ワン沈没事故から2年 | junとさらくのブログ

junとさらくのブログ

さらくSALAKUは船名です。

 一昨年4月23日、北海道知床半島ウトロ港の観光船に乗っていた20人が死亡、6人が行方不明という悲惨な沈没事故だった。

 

 事故発生に至る経緯と、遅れた救難活動、その後の民事訴訟についてはWikipedia「知床遊覧船沈没」に詳しい。

 

 死亡した若い甲板員のご両親による民事訴訟で提訴されているJCI 日本小型船舶検査機構は、小型船所有者にとっては3年毎の検査員来船という接触がある。

 

 ほとんど意味のない検査ではあるが、法律で義務付けられているから受けているだけである。ほとんどの小型船所有者も同じ気持ちと思うが、日本人は国家体制に従順であることが美徳と幼少より教え込まれているため、抗議や反発は表には出てこない。

 

 

 去年の船検の時、検査員がバウハッチを見せてくれとこれまでに聞いたことのないことを言った。なんでまた?と思ったが、あとでJCIが

カズワンのことで提訴されているからだなと気がついた。

 

 検査後バウハッチの水密性が不完全なことからまた同じような事故が起きた時に、JCIへの非難が巻き起こることを怖れているのに違いない。

 

 自分の船のこのハッチの水密性については、他人に言われるまでもなく十分慎重にチェックする習慣がついている。船首が波に突っ込むとここは海中に潜ってしまうこともあるから、水密状態を保てないと船内に大量の海水が浸入してしまう。

 

 カズワン沈没の原因は前部ハッチを閉じることができずに開いた状態になってしまい、海水がハッチから船に流れ込んだためだったという運輸安全委員会の事故調査報告書が去年9月に公表された。

 

 このハッチでは二か所にあるハンドルを回してまわりのゴム製パッキンを縁に押し付け水密状態にする。押し付ける力の強弱はハンドルに付いているプラスのタッピングねじの締め方にかかっている。普段は船内の湿気を取るため開けることの多いハッチだから、ハンドルは軽く動くようにしておきたいものだが、うっかりそのまま出航して波をかぶると浸水してしまう。だからいつもねじは強めに締めてハンドルは重いくらいにしている。


 JCI検査員氏が少し見たり触れたりしてもそこまでわかるはずはないが、「ハイ大丈夫です」で終わりだった。いつものように形式的な検査に過ぎなかった。

 

 カズワンの検査でもちょっと見ただけで安心、安全ですとしてしまったのだろう。甲板員のご両親にとっては検査の実態を知って信じられなかったに違いない。しかし、それが現実のことだったと知って提訴に踏み切ったのだ。

 

 日本国の形優先、本質忘却、カネと書類で終わりというあり方を象徴するJCIの「検査」である。他人事とは思えないから裁判の行方には関心を持ち続けたい。

 

 

 

 カズワン沈没事故直後の報道では、知床半島の海域は携帯電話会社によってはつながらない所が多いのに、JCIが携帯電話を持っていさえすればOKを出していたことも問題視された。しかし、JCIや国土交通省は明確に答えないままだ。ウトロの漁船の中には衛星携帯電話を使っている船もあるほどだから、検査に来る人たちが実状を知らなかったとすれば、お粗末な話だ。

 

 通信についてはもう一つ、VHFのことを忘れてはいけない。

海上通信、つまり船舶同士、船と陸上との連絡をするための無線であるVHFの許認可制度が日本では煩雑で費用がかかるため、小型船にはきわめて搭載しにくい状態が続いている。この問題を沈没事故後に一時的に取り上げたマスコミはあった。

 

 しかし、それも一時期のことだけでその後はまったく新聞やテレビには取り上げられなくなった。アメリカでは免許など一切持たずともVHF無線機を小型船に搭載できるのに、日本だけは国家試験という名の内容がなく役には立たない制度で国民を縛り続けている。以前からヨット関係の団体や雑誌でも、このことに触れることは滅多にない。従順な国民性がそうさせるのか、考えず諦めるのが速いのか。

 

 船に乗る者自身が声を出すことをしないのなら、いつまでたっても今のままだろう。

 

ライフラフトのゴムボートの格納容器

 

格納容器に入っている5人乗りゴムボート

 

 カズワン沈没事故直後の報道では、JCIが定めたライフラフトや救命浮器などの搭載についても触れられた。知床のような水温が年中低い海域では救命浮環(浮き輪)や救命浮器(厚い板につかまるロープが付けられただけのもの)では、ごく短時間の生存しか望めない。

 

 こんなわかり切ったことなのに、それらの搭載だけでJCIは許可を出していた。ウトロでは事故後、他の会社の観光船が営業再開しているが、今でも以前からの安全備品のままで出航しているのだろう。

 

 ライフラフトは費用がかかるうえ、荒れた海上で小型船から乗り移るのはかなり大変だ。熟練の乗組員が手助けしたとしても、海に落ちる乗客が出る可能性は高い。カズワン沈没のあと「国土交通省は飛び移らなくても乗り移れるライフラフトを開発すると発表した」というニュースを見たが、できっこないと思った。案の定、いまだに「開発した」とのニュースはない。できたとしても高額なものになるのはわかり切った話だ。

 

 天気予報で強風注意報が出され、まわりの人から出航しないほうがいいと言われながら出航してしまったカズワン。船長は死亡してしまったが、管理者の社長の責任はどうなるのか。民事裁判は始まったが、海上保安部は捜査中ということか。元検察官の弁護士は「この件で社長を起訴しないということはあり得ない」と言っている。

 

 この国の私たち小型船所有者は、検査だ免許だ変更申請だなどで金を取られ、時間も取られ続ける。それでも自分自身の勉強と努力で安全な航海はできる。しかし、何も知らずに観光船に乗ってわけのわからないまま冷え切った海の中で海水を飲まされ死んでいった人たちは生き返らない。

 

 国の機関はカズワンの救助はできなかったが、せめてできる限り早く責任者の捜査を終えて起訴に持ち込み、裁判を始めてもらいたいものだ。