知床 カズワンの沈没 | junとさらくのブログ

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さらくSALAKUは船名です。

  このごろ海上にいても温暖化が進んでいることを強く感じる。

 

 以前は真夏でも午後8時ごろになれば船内にいられるくらいに温度が下がったものだった。今ではその時間にはとても無理、午後11時ごろになれば入れはするが、寝ようと思っても無理。デッキで寝るしかない。

 

 午前3時ごろになると冷えて来て目が覚め、船内に入って寝直すことになる。エアコンを載せるヨットもあるが、重くなるし電気は食うしでしない。

 

 

 6月下旬に24マイルセーリングして福江島へ行った時も暑かった。

海上も暑かったし港も暑く、とても寝れそうになかった。近くにあるビジネスホテルに泊まった。トイレ、風呂は共同、部屋も狭かったが、とにかくクーラーのあるところに入りたかった。

 

 よく寝られた。早朝窓を開けると、霧がかかっていた。

 

 

 7時過ぎになると、だんだん霧が晴れて来た。

 

 二泊したあとの帰りも暑かった。

セーリングできるくらいの風が吹いても暑く、日陰に逃げ込んでワッチ。

温暖化はまだ進みそう、いったいどうなるのか。

 

 バウハッチを開けられたのは凪いでいたから。

少し波があるとしぶきが入るので閉める。

 

 4月に起きた知床でのカズワン沈没事故。20人の遺体が見つかったが、まだ6人が不明という海難事故になってしまった。今月15日に公表された運輸安全委員会の経過報告書。原因はバウハッチがしっかり閉められなくなっていたことで、海の状態が悪化して波がそこから船底に打ち込んだこと。

 

 さらに外れたハッチが船室前面の窓を割ってしまい、船室にも海水が打ち込んだ。船底の隔壁が完全ではなく、打ち込んだ海水が船尾に近いエンジンルームまで流れ込んだ。

 

 荒れた海でこうなると、エンジン停止、バッテリー水没で無線で救助要請もできないし、船のコントロールは不可能に。

 

 

 この事故では当初、船長が知床ではつながらないキャリアの携帯電話しかもっていなかった、ワッチしているべきだった会社の無線アンテナが壊れていたことが取り上げられた。
 
 マスコミに海の無線事情に詳しい人は少なく、アマチュア無線を違法につかっていたなどと枝葉末節を特ダネのつもりで掲載した新聞社もあった。
 
 海の通信手段にはVHFという世界共通の無線がある。しかし日本では、なぜかこれを小型船には使わせないようにしてきた。
 総務省総合通信基盤局を名乗る役所が元凶である。これに内航海運組合総連合会という補助金分配団体が忖度し、小型船への搭載普及を妨害してきた。こんなことをしているのは日本だけで、バカげたことだ。
 
 小型船ではこのキバン局なるものがVHF搭載を免許取得、無線機搭載などで手続きを煩雑化し、妨害している。そのために、より安価で免許も簡単なアマ無線を使わざるを得なかったというのが本当のところなのだ。
 
 携帯電話を使おうとすると、都市部から遠い知床のような海域では通じない場合が多々ある。これはよく知られたことで、安全を考えるならVHFの免許制度を抜本的に考え直し、アメリカのように免許なしで使えるようにするしかない。それも早急に。
 

 

 次にニュースに上がったのがこのライフラフトだった。

カズワンには救命浮器という名称だけは立派だが、実は四角形の浮きにロープが付いているだけの小さな筏しか積んでなかった。これはロープにつかまって体は海の中に入れたまま救助を待っていろというもので、知床のような海水温が低い海ではごく短時間でないと生存できない。九州でも冬期には水温が十度代まで下がるから、ライフジャケットをつけて漂流するのと変わらない。

 

 それに代わるものとしてライフラフトがある。普段は船上のコンテナ内に折りたたまれて搭載されている。

 

 一旦ことが起きた時には、圧縮された気体が充填されたボンベから気室内に放出され、こうして膨らんで浮かぶ。これなら知床でも大丈夫のように見えるが、実はそうでもない。

 

 

 船から人が直接ライフラフトに飛び込むと、ゴムにキズが入って気体が抜け浮いていられなくなることがあるからだ。それを防ぐため人は一旦海に入り、そのあとこうして乗り込むことになっている。

 

 海水温が低いところでこんなことをしていたら、低体温症になって救助される前に死んでしまう人も出るだろう。それに小型ライフラフトは膨張する時にさかさまに開いてしまうこともある。その場合にはやはり誰かが海に入って、ひっくり返してやらなくてはならない。

 

 カズワン事故の後、国交省が直接乗り込めるライフラフトを開発すると大見えを切った。どんなものか想像はつく。シューターで船とラフトをつなぎ、人はその中を滑って乗るということだろう。

 

 乗組員が4,5人もいる船ならいいが、たいていは2人だ。そんな人数でラフトが船から離れるのを防ぎながらシューター設置、乗客誘導ができるか?まっ平な凪の海ならいざ知らず、事故が起きるような高い波の中でそんなことができるラフトができるのか。

 

 

 イギリスの女王が亡くなり、チャールズ国王が即位した。そのニュースを見ていたら、新国王の仕事始めとして作業小屋のような所を訪問していたのでなんだろうと思った。壁にかかっているものなどから海関係の作業場に見えた。

 

 あとでRNLI訪問だったことがわかった。Royal National Lifeboat  Institution 王立救命艇協会。小型船救難機関としてこういうものがイギリスにはあり、建前としては王室が運営しているのだ。

 

 

 この装備を見てもらいたい。

JCI日本小型船舶検査機構が得意とする救命浮器はどこにもなく、8人乗りくらいのライフラフトが二つ、上部には小回りのきく小型ボートが搭載されている。20年以上前にイギリスのカウズ付近で撮った写真で、その後装備が変わっているかもしれないが大差はないだろう。

 

 かなりの大波の中でも走れる耐候性の高いボートのようだ。日本では海上保安部が小型船救助もするが、密漁、密輸や密入国、そして国境のパトロールなどが主任務とされ、これほどの救命装備を持ったスピードボートは持っていない。

 

 イギリスには日本より圧倒的に多い小型船があるため、これだけ小型船救助に特化したボートがつくられるという面はある。それにイギリスの水温は一年通して低いから、クイックな救助活動がより強く要請される。

 

 カズワン事故でマスコミが当初報じなかったものがもう一つあった。

文吉港のことである。最近になって、知床半島先端から東に約2キロのところにこの港があることを知った。

 

 26人を乗せたカズワンは知床岬沖まで行き、ウトロ港へ向けてそこで折り返した。その時はまだ波が小さかったのだろう。しかし、天気予報はその後荒れることを知らせていた。ウトロ港の人たちもカズワン船長にそのことを話していたという。

 

 この海域には文吉港以外に避難できる港はない。ここには沖堤防もあり、逃げ込める場所だ。まだ波が小さかったからウトロ港まで行ける、と船長は判断したのだろう。お客さんを時間どおりに帰してあげたい、そうも思ったのだろう。しかし、ウトロ港まではまだかなり遠いこと、そして天気予報や注意報を軽視してしまった。

 

 日本ではJCIのようなところが細かな規則をつくっては小型船に規制をかける。もとは海運局を退職した人たちの再就職先としてつくられた半役所だ。航海灯は点くか、NC旗はあるか、形象物はあるか、あるならよろしい許可する、手続き費用を出しなさい、これだけである。

 

 これですべて安全、いつでもどこでもボクは私は行けるのだ。そう思い込んでしまう人が多いが、これはとんでもない間違いだ。たとえば信号紅炎、限定沿海なら2本あれば検査はパスできる。数百メートルのところに他の船がいれば2本に着火するだけで気が付いてもらえるかもしれない。しかし、1キロ、3キロ離れていて風が強かったり雨が降っていたらどうなるか。煙は海面近くにとどまり発見されるチャンスは小さくなる。

 

 今回の経過報告書の中に「安全第一の運航がもっとも大事だと船関係者が理解し、文化として醸成させることが必要だ」という意味の文面があるという。

 

 船関係者とは誰のことか?煩雑な規則や検査と許認可制度で金を巻き上げながら、役所の利益だけを図ってきたのは、どこの誰ですか。VHF普及を拒んで来たのは誰ですか?それにおとなしく付き従って来たのはどこの国民ですか。