私達家族は、父が3回目の脳梗塞を起こした後、約10年の介護生活を送りました。

そして、4年前の9月24日に自宅で父を看取りました。

 

父に介護が必要になった頃、私たちは介護に関する知識に乏しく、ましてや田舎者ですから介護は家族でするものだと思い込み、数年間は家族だけで父の介護をしていました。

その後、ご縁で訪問介護士さん(ヘルパーさん)に来ていただけるようになり、家族のストレスが減りました。

ヘルパーさんは、親類のように関わってくださって、母は愚痴を言えるようになりました。

家族だけだといっぱいいっぱいになってしまうことがありますが、ヘルパーさんが来て下さることで、介護される当人だけでなく家族も助かりました。

 

後に、父は誤嚥性肺炎を起こすようになり、入退院を繰り返しました。

自力では立てなくなり、訪問リハビリの方や訪問看護師さんにも関わって頂くようになりました。

父の病状が変化するごとに、ケアマネジャーさんにケアプランを考えていただき、父がより健康に過ごせるように沢山の方に助けていただきました。

本当にありがたかったです。

 

父は家にいることが大好きでしたので、入院するといつも1週間位で、帰りたがりました。

しゃべれませんでしたので、私の手を握り、じっと目を見つめるのです。

気持ちだけは、しっかりと訴えてきました。

最後の入院は長かったので、なだめるのが大変でした。

入院して1ヵ月経った頃、病院から「もう食べることはできないから、胃瘻を勧めます。」と言われました。

胃瘻について、インターネットで調べたり、医療関係の友人に相談したりして、悩みに悩みました。

胃瘻した時のメリット・デメリット、そして不安な気持ちを担当の先生に相談したりもしました。

母と時間をかけて話し合い、最終的に胃瘻をしないことを選択し、父を家に連れて帰りたいと担当の先生に伝えました。

担当の先生は、私たちの気持ちを大切にして下さり、在宅医療に切り替えることを承諾してくださいました。

 

そして、在宅医療に切り替え、在宅医療専門の先生にお世話になりました。

父の傍に居る時間が長い母と私の気持ちと、時折顔を出す弟と妹の気持ちにはズレがありました。

弟と妹には、父の状態がもうギリギリの所なのだという実感があまりなかったのだと思います。

二人共、先生の提案に戸惑う様子を見せることがありました。

そんな時、先生は一人一人の思いを大切に考えて、診療方針を決めて下さいました。

混乱している弟と妹は、少しずつ父の状態を受け入れていくことができたのだと思います。

今思い返しても、感謝しかありません。

 

一方、父は帰って来ることができて、とても喜んでいました。

入院中、上がらなくなった左腕が帰宅して2日後には上がるようになり、顔色も良くなりました。

笑顔も出るようになりました。

寂しがり屋の父には、病院にいることが本当に辛かったのだと思いました。

そして、母と話して、父の幼なじみの方やわがままを聞いてくださる方に連絡をし、父の顔を見に来てもらえるようにお願いしました。

快く会いに来てくださる懐かしい顔を見て、父は泣きながら喜んでいました。

連れて帰って来ることができて、本当に良かったと思いました。

 

日常生活に関しては、父が退院した時に、私たちはいろんなことをあきらめていました。

お風呂に入ること、物を口にすること、外出すること、薬以外のものを使う事。

寝たきりの状態が、病院から自宅に変わるだけなのだと思っていたのです。

ところが、看護師さん、理学療法士さん、ケアマネジャーさん、介護士さんから、いろんな提案をして頂けたのです。

まずは、お風呂でした。

訪問入浴を手配して、父はお風呂に入ることができました。

家族に見守られながら、お湯につかり気持ちよさそうに息をもらす姿は、元気な時の記憶を蘇らせました。

その姿を見て、ケアマネジャーさんは、「体調の良い時をみて、また依頼をかけましょう」と言ってくださいました。

看護師さんがいる時には、好きな食べ物を味わうチャンスをもらえました。

父が大好きだったスイカの果汁をガーゼに沁みこませ、舌で味わうことをさせてあげられました。

床ずれ防止にアロマを使っていいよと、看護士さんが言ってくれたこともありました。

「お父さんが喜ぶことをしてあげてください。沢山触ってあげてください。」

みなさんから、そう言われました。

最初は意味がわかりませんでした。

けれど、触っている内にわかってきました。

その時まで、私は看護師さんや介護士さんの様にしっかりしなければと思っていました。

けれど、そうではなく、子供の時の様にただそばに居て、触れていればいいのだとわかりました。

すると、父のそばに居て、私の心が穏やかになってきたのです。

私の気持ちが変化すると、父は時折幼子をみるように私を見つめました。

父がいるところが、病院から家に変わるだけのことです。

けれど、いろんな変化が起き、沢山の思い出を頂けました。

私にとっては、親子のやり直しの時間になりました。

短い期間でしたが、沢山の出来事で満たされた時間となりました。

寂しがりで甘えん坊の父でしたから、家族と一緒に過ごすことができて嬉しかったと思います。

最後は、家族に見守られて、眠るように、穏やかに旅立ちました。

 

父が逝ってから月日が経つごとに、「あれもしてあげればよかった。」「こんな風にもできたのではないだろうか。」等と思い返すことがあります。

どれだけの事をしていても、後悔はするのだろうと思いました。

私達は、在宅を選択して本当に良かったと思います。

 

それぞれのご家庭に、いろんなご事情があると思います。

ですが、1日でもいいので在宅医療・在宅介護を考えていただけたら・・・と、私は思います。

ご本人の為だけではありません。

共に過ごすことで、遺された家族の為にもなるからです。

私は父と向き合えたおかげで、母との関係性が変わりました。

そして、このように過ごすことができたのは、在宅の医療そして介護に関わる方々がいてくださったからだと思っています。

本当に、手助けして下さってことに感謝しています。

 

これから先、身内の問題で医療や介護と向き合う方々が、在宅という選択肢を難なく選べるようになればいいと思っています。

そして、遺された家族が、罪悪感や後悔ではなく、優しい思い出を持って生きていけるようになることを願っています。

 

今日は、父の事を思い出し、心の整理をする機会を与えてくださって、本当にありがとうございました。