現世渡り
あずきちゃんが眠る縁側には
暖かな日差しが差し込んでいた
ふぁ〜、よく眠ったのにゃ〜
伸びをして起きるあずきちゃん
いろは〜
どこにゃ??
すたすたと色んなお部屋をまわり
いろはを探す
所々にある障子に
猫の本能がうずうずする
んー、我慢にゃ…
いろはー
手で手当たり次第の部屋の
障子を開けると
ある部屋で
朧が穏やかな寝息を立てて眠っていた
あ、お兄さんが寝てるのにゃ
彼の寝顔を見つめるあずきちゃん
大人になった朝陽くんにしか
見えないのにゃ
私も一緒にねるのにゃ
彼の布団の上にのり
丸くなるあずきちゃん
穏やかな時間が少し経ったころ
「おはようございます、朧さま。
いろはです。
にゃ〜
ごめんにゃ…許してほしいにゃ
ふわっとあずきちゃんの頭を撫でると
宝玉の蝶をあずきちゃんにつける
「わぁ、ありがとにゃ
綺麗にゃ」
「この宝玉のことは、もう知っているかな?」
「お兄さんの宝玉で、私はお喋りするために
お兄さんから借りてるのにゃ」
「そうだね。宝玉が現世に行ける通行証ということも
わかっているね。」
「わかっているのにゃ。
現世には朝陽くんがいる
また会えたら…会うことが叶うなら
あの時、伝えられなかった
お礼を言いたいのにゃ…」
朧が少し俯く
「そうか…君が会いたいと願う者に、出会えたとする
その者が君の思う姿でなかったとき
君はそれでも後悔はないかい?」
「なんのことにゃ??
朝陽くんは、朝陽くんにゃ。」
「現世に行くというのは、危険も苦しみも伴う。
肉体を持たない魂の存在の君が、
いま現世にいることのできる時間は、1日。
現世の魂の運命を変える事は許されない。
約束を破れば、相応の罰を受けることになる。
それでも相応の覚悟があるならば、
宝玉の力を使い現世渡りの術を行う」
「朝陽くんに会えるなら…覚悟の上にゃ」
まっすぐに朧を見上げてうなづくあずきちゃん
朧がうなづくと呪文を唱える
『いってらっしゃい』
朧といろはの優しい言葉と
共に消えるあずきちゃん