①猫ブームを裏で支えるペットオークションの実態

 

毎日新聞2016/10/19日の記事より転載

https://mainichi.jp/premier/business/articles/20161018/biz/00m/010/005000c

 

ペットショップに行けば可愛い盛りの子猫や子犬が何匹もいて、お気に入りの一匹を選べる。ショップが常に多数のペットを用意できるからこそ成り立つ商売だ。背景には、繁殖業者(ブリーダー)とペットショップを組織的につなぐ日本独自の「ペットオークション」というシステムがある。いったいどういう仕組みなのだろうか。

 

 

ペットオークション会場の関東ペットパーク=埼玉県上里町で2016年10月5日、駅義則撮影

ペットオークション会場の関東ペットパーク=埼玉県上里町で2016年10月5日、駅義則撮影

 

700匹を次々と「競り」に

 「6万円、6万1000円…。はい6万5000円」。

 白衣を着た男性2人が、空気穴の開いたダンボール箱から子犬や子猫を一匹ずつ取り出し、周囲の机に座る30人余りのバイヤーによく見えるように差し出す。頭上のモニターには「ラグドール、8月14日生まれ」などと、品種や生年月日、出品者などの情報が表示される。

 

オークションの様子

オークションの様子

 

司会者が1000円刻みで値段をアナウンスするのに合わせ、バイヤーが手元の「応札」ボタンを押す。1人に絞られたところで、落札価格が決まる。競りの時間は1匹あたり1分程度。見事な流れ作業だ。

 競りは正午からだが、その数時間前からブリーダーが子犬や子猫約700匹を持ち込んで、業者が用意した箱に入れて並べていた。まず獣医が目や肌、骨格など健康状態を1匹ずつ検査する。ブリーダーも立ち会い、医療面で助言も受ける。検査に合格すれば箱に戻されて競りに向かう。

 取材した10月5日は約90のブリーダーと約30社のショップが参加し、猫と犬の割合は約3対7だった。かつては犬がほとんどだったが、ブームを背景に最近では猫も増えてきたという。不合格になるのは毎回5、6匹程度。これ以外に、その日の状態では高くは売れないとしてブリーダーが出品を取り消し、いったん持ち帰る例も目についた。

 

 

獣医2人によるペットの検査。オークション会場の隣で行われていた

獣医2人によるペットの検査。オークション会場の隣で行われていた

 

全国に22あるオークション業者

 自治体に登録されているペットオークション業者は全国で22ある。取材させてもらったのは、業界では2番手の「関東ペットパーク」(埼玉県上里町)だ。同社の上原勝三社長は北海道から関西まで14のオークション業者が加入する一般社団法人「ペットパーク流通協会」の会長を務める。最大手の業者は協会に参加していない。

 関東ペットパークのオークションは毎週水曜日。協会加盟の他業者と開催曜日をずらし、ショップ側の仕入れ機会を増やしている。検査不合格となったりショップで売れ残ったりした子犬や子猫はいったん引き取り、提携先の六つの動物愛護団体が飼い主を探す。病気で廃業したブリーダーの犬や猫も、愛護団体や他のブリーダーに回すなどして極力救ってきたという。

「最大の元凶はネット通販」

 ペットオークションに対しては、動物保護団体からの批判が根強い。大量生産と大量廃棄を助長しているとの主張だ。公益社団法人・日本動物福祉協会の町屋奈・調査員は「ペットオークションを廃止するなどして大量生産に歯止めを掛けない限り、不幸な環境に置かれる動物は減らせない。蛇口を締めないと問題は解決しない」と強調する。

 

子猫や子犬は箱に入れられオークションを待つ

子猫や子犬は箱に入れられオークションを待つ

 

 

上原氏は「生き物を競りにかけるのは誰が見ても良くはないが、批判を受けて改善も進めてきた。オークションを通じてブリーダーと獣医、ショップが情報を共有し、衛生面などのレベルも上げてきた」と語る。さらに、オークション業界全体には不透明さが残ることは認めながらも「一気に廃止されたら、大量のペットが捨てられかねない」と主張する。

 同氏によると、国内全体のペット流通のうち、オークション経由の比率は65%程度。チェーン展開する大規模ショップが増え、比率が急上昇してきた。かつてはショップがブリーダーから直接調達する形が主流だったが、現在の比率は5%に下がっている。

 そして、残る約30%は、ブリーダーがインターネットを通じて顧客に直接販売する「ネット直販」。上原氏は最大の問題はネット通販業者にあると指摘する。安くて手軽な半面、「飼育実態をごまかしやすいし、トラブルを招く悪質なブリーダーも多い」からだ。

 環境省の統計によると、昨年4月時点で犬猫を販売するのは1万6000事業者。このうち、繁殖を行っているのは約1万2400にのぼる。自治体に登録しさえすれば、だれでもブリーダーになれるのが実情だ。上原氏自身、「犬に比べて猫は飼育が簡単。猫バブルともいうべき価格上昇で安易なブリーダーが増えると、後が怖い」と危惧する。

 緩い規制のなかで、流通のルートから落ちこぼれるペットたちがいる。次回はブームの闇の部分である、悪質な引き取り業者の実態を紹介する。

 

 

 

 

 

②売れ残った犬猫がたどる悲しい運命を知っていますか

同じく毎日新聞2016/10/24の記事より転載

https://mainichi.jp/premier/business/articles/20161020/biz/00m/010/032000c

 

ブームが盛んになればなるほど、闇に葬られるペットが増えるとの懸念が、動物愛護団体を中心に強まっている。大量生産には必然的に売れ残りが伴うからだ。こうしたペットを、どんな運命が待つのだろうか。栃木県中部の山あいの施設で犬や猫を劣悪な飼育環境に置き、10月17日に栃木県警から動物愛護法違反(虐待)容疑で書類送検された「引き取り業者」の例を紹介しよう。

 

栃木県の「引き取り業者」の犬舎。劣悪な飼育環境だ=2016年1月16日、日本動物福祉協会撮影

栃木県の「引き取り業者」の犬舎。劣悪な飼育環境だ=2016年1月16日、日本動物福祉協会撮影

 

 

「17~18年前からやっていて最盛期には200匹強いた」。引き取り業の会社を経営してきたS氏は、送検前の電話取材にこう語った。廃業を強いられたブリーダーから犬や猫を引き取って飼育し、別のブリーダーなどに転売するのが、主要な業務だった。

 10年ほど前から飼育環境が劣悪になったとの通報を受けた公益社団法人・日本動物福祉協会が調査したところ、排せつ物の処理などが適切に行われず、19匹の犬や猫が体調を崩していた。協会はS氏の会社が動物愛護法44条2項の適切な飼養管理及び健康管理等を怠った虐待罪に該当するとして告発、今年5月に同県警が受理していた。

 

 

「引き取り業者」のケージに閉じ込められていたシーズー犬=2015年12月10日、日本動物福祉協会撮影

「引き取り業者」のケージに閉じ込められていたシーズー犬=2015年12月10日、日本動物福祉協会撮影

 

 

「俺がやめたら殺処分しかなくなる」

 協会が調査した時に撮影された写真には、死後も放置された犬などの惨状が捉えられている。告発状に付けられた「被虐待犬猫一覧表」によると、栄養失調により死んだミニチュアダックスフントや、ダニの付着に耐えかねて目や首の周辺をかき過ぎ、皮膚が欠損したアビシニアン(猫)がいた。

 だが、S氏は「殴ったり蹴ったりはしておらず、虐待したつもりはない」と言い切った。刑事処分を受けたとしても事業は続けるつもりだという。「俺がやめたらみんな困るでしょ。殺処分するしかなくなるだろうし」というのが、その言い分だ。

 動物福祉協会の川崎亜希子・栃木支部長は「現在の動物愛護法では、必要最低限の世話をせずに放置するネグレクトの場合も虐待罪に問われることを、S氏は知らなかったようだ」と指摘。「県が実態を把握して指導していれば、こんな惨状にはならなかっただろう」と話す。

 

「引き取り業者」から救出され、その後元気になったシーズー犬=2016年9月、日本動物福祉協会撮影

「引き取り業者」のケージに閉じ込められていたシーズー犬=2015年12月10日、日本動物福祉協会撮影

 

事件は氷山の一角

 栃木県では2014年10月にも、鬼怒川河川敷で大量の犬の死体が発見された。愛知県のブリーダーが劣悪な飼育環境下で子犬を産ませ続けたあげく、熱中症で死んだ。死体は栃木県まで運ばれて捨てられたとみられている。川崎氏は「こうした事件は氷山の一角に過ぎない」と指摘。ペット流通の仕組みが現状のまま続く限り、「不幸の連鎖は無くならない」と述べている。

 

 動物愛護法で規定された虐待罪の刑事罰は100万円以下の罰金。犬や猫などの「愛護動物」を遺棄した場合も、これと同じだ。動物愛護法に基づく最も重い罰は、正当な理由がなく殺傷した場合であり、2年以下の懲役ないし200万円以下の罰金となる。

 だが、筆者の知る限り、いくら悪質な事件でも懲役や禁固の実刑判決が出たことはない。たとえば、12年に判決が出た川崎市での猫虐待事件。飼い主になると言ってボランティアからだまし取った猫を残虐な方法で殺したとして、愛護法違反と詐欺罪に問われた男性に言い渡されたのは、執行猶予5年が付いた懲役3年の判決だった。

 

無責任な繁殖や販売をしない覚悟が必要

 14年に埼玉県で、全盲の男性が連れていた盲導犬が何者かに刺されたのではないかとして捜査が行われたことがあったが、このときの捜査の容疑は「器物損壊」だった。愛護意識が高まってはいるものの、法的に見ると犬や猫はあくまでも「もの扱い」の色彩が強い。

 この現実に行き過ぎた商業主義が加わると、悲劇は避けられない。「売れない商品」に、エサ代や医療費などのコストを費やすのは市場原理に反するからだ。だが、売れ残りという「不良在庫」を出すこと自体、市場経済では本来ご法度とされている点も指摘しておきたい。

 

 

精神論になるかもしれないが、不幸の連鎖を止めるにはペットの命に携わる人間の全てが、「覚悟」を共有する必要があるのではないだろうか。生産・流通業者には無責任な繁殖や販売をしない覚悟、消費者には安直に買わない覚悟、そして飼い主には、「相棒」として最後まで面倒を見る覚悟が、それぞれ求められている。

 

 

~以上、転載終了~

 

皆さんはどう思いましたか?

 

ペットショップで買うということが

この様な悲惨な状況を生んでいるのです。

 

ペットショップではなく里親になる選択を!