「おっ?何かやっとるな」
村にある唯一の商店へ向かう途中、若い男達が集まる一画に出くわした。
汗臭と生乾き臭の二段攻撃に備え、少し距離を置きながら覗いてみる。
「えっ?何アレ!?」
「豚やな、豚の毛を炙ってんのや」
こういうのって、20年くらい前にメーホンソン(タイ北西部)で見たな。
「最初に熱湯かけてな、その後ああやって表面を炙んねん」
「へぇ~っ…」
こういった作業は男達の仕事と昔から決まってはいるが、幼い頃から見慣れてないとまず無理だろうな。
オレも昔、お袋方の田舎で鶏をシメる場面を見る機会があったが、爺ちゃんに『向こう行っちょけ』と言われて見れなかった。
『子供は見なくていい』という人もいれば、『しっかり見とけ』という人もいる。オレ爺ちゃんは前者の方だった。
豚や水牛を潰す(シメる)って事は、余程目出度い事があったのだろう。
ま、この村にもデカい車は止まってたし、もっと山奥の村じゃない限りは違うかもしれないが、基本的に貧しい村で家畜を解体するのは祝い事の時だけだ。それ以外は鶏だけだと言っても過言じゃない。
後になってヒロコさんから聞いた話だが、この時は村人の誰かに少額じゃない臨時収入があったそうな。
(しっかしまぁ……祝い事がある度に家畜潰すのも大変やな。オレには絶対無理だわ…)
頭と内臓を抜いた状態なら、牛であろうが豚であろうが捌く事は簡単だ。
でも、丸っぽの状態からはちょっとなぁ…
オレ、魚のワタ出すのも嫌いだし笑
(しっかし退屈やわ……)
Wアユミは流石に女子。
どの家に行っても反物や服を興味深そうに見ているが、男のオレにはその良さがサッパリ分からない。
いや、『男の』という言い方は違うな。
ヒロコさんのゲストハウスには、それこそ色んなタイプの客が来ているみたいだが、中にはこういうのが大好きな男の子が何度もリピートしているらしいし、そういや一昨日来てたはるちゃんだってフェルトを使った絵だか雑貨だかのアーティストだったかな?
とにかくオレには無縁な世界だが、そういうのを好きな人は少なくないって事か。
「じゃあ、アタシはそろそろ戻りますね〜。ゆっくり楽しんで下さ〜い」
ヒロコさんは案内で来ただけで、夕方までにはタイ側に戻らなければならない。
て事は……
「€¢℃‡¢‰√£§!」
「……は?」
ま、そうなるわな笑
いやいやいや!タイ語だって不自由すんのに、ラオスの少数民族語なんか分かる訳ないやんか^^;
つか、ヒロコさんが帰った途端めちゃくちゃ商魂逞しくなってるやんwww
「何を言うてはんの?」
「殆ど分からんけど、さっきアユミちゃんが『サイズが小さい』って言うてたパンツ、明後日までにサイズ合わせて持って行くって言うてるみたい」
「あ〜……」
「アユミちゃん、それでかまへん?」
「はい、私は大丈夫です」
ま、オレが買う訳じゃねーし全然構わないのだが、目の前で繰り広げられている民族商戦には多少引くモノがあるな笑
ヒロコさんには『この村の人は、本当に商売っ気が無い』って聞いてたんだが、そこはどうやら各家によって差がある様だ。
「§€¢√‰£‡℃、№§※‰¿№!」
「何を言うてはんの?」
「コレを買うついでに、コッチもどうだ?って感じなんやろな。それにしてもコレが2000バーツか……手紡ぎって、ホンマに高いモンなんやなぁ」
『んなモンに高い金を…』等とは決して思わない。
それは本当に価値観の問題で、オレがその価値を全く理解していないだけの話だ。
韓国に行く度に顔が変わって帰って来る客もウチにはいるし、丸太の様な脚でパンパンになったブーツがお気に入りの女子もいる。
巷では最近ヘソ出しが流行っている様だが、腹の肉でヘソがアヒル口みたいになっているぽっちゃりちゃんだって価値観の問題だ。本人が満足してるならそれでいい。
「しかしガッツリ買うなぁ、アユミちゃん」
「はい、この為に来たんで笑」
そりゃそうだわな。
タイなんかは特にそうだが、現地で節約する為に来た様なスタイルほど馬鹿馬鹿しいものはない。
そういう面で言えば、この娘は本当に充実した旅をしてるよな。
「うははははっ♪そやけどスゲーな、めちゃめちゃ売り込み激しいやん笑」
「チャンスなんやろうね〜、この人達にとっては……私はもうエエわ」
なぁ、テンネン族
もうエエも何も、アンタが買ったピンポンパンのシンペイちゃんみたいな帽子。
それだけでアユミちゃんが買ってる服の数倍は破壊力あるぞ、マジで。