前回の話はコチラ↑
注!
≪見たことをそのまま書き記している為、人によっては残酷と思える描写が文中にあります。苦手な方はスルーして下さい。≫
翌朝は4時起床。
流石にオーナーさん一家も起きてない時間だと思うが、特にやる事も無いのでシャワーを浴び、買い置きしておいた缶コーヒーで一服タイム。
「あら、オマエはもう起きてたんか?早ぇなぁ~…」
最初は散々吠え立てられたが、餌付けという儀式を経て番犬化した犬塚クン。奥さんもびっくりしてた。
(え~っと……う~ん、喰われてる所が多すぎてよく分からんな?)
尻の下から膝にかけての喰われ痕は相変わらずだが、腰周りや腕の一部にもダニの痕跡らしきブツブツが出始めた。
ま、ノミや南京虫じゃないだけマシと言えばマシなんだが、それでも日を追う毎に酷くはなっている。
参ったな、ムヒなんか全く役に立たんわ…
その正体はチンチョック(ヤモリ)の卵だった。
世界一小さい目玉焼きが作れそうだ。
「おはようございます」
「おはようございまーす、眠れましたー?」
暫くすると奥さんが起きて来て竈に薪をくべ始める。
主婦の朝が忙しいのは世界共通だが、ガスや電気じゃなく、薪に火を点けるのが最初の仕事って雰囲気満点だな。
「すぐ爆睡しました。お陰で早起きし過ぎましたよ」
「暑くなかったでしょー?」
「扇風機で丁度いいくらいですね。蚊にも喰われなかったし」
「旦那と娘は蚊帳無しでも喰われないんですけどね~、私はとてもじゃないけど無理です」
やっぱりか。
アレって何でなんだろうなー?地元民の爺さんとか、上半身裸で昼寝してても喰われないみたいだし。
やっぱり虫も外食したいんだろうな、食い飽きた家庭料理じゃなくて。
「今日はどこか行くんですかー?」
「あの~、山の方にモン族の集落があるじゃないですか?あそこまで行ってみようかなと思ってます」
息子に食わせる昼メシに悩むのがアホらしくなってくるな。
淹れてくれたコーヒーを飲み、奥さんとカワイコチャンの見送りをしたらすぐ出発。
まだ朝メシも食ってないしな、どっかで適当に済ませなきゃ。
(さて、ホナ早速行ってみるか)
モン族の村なんか別の場所でいくらでも行っているのだが、そこは多少なりとも観光地化された集落ばかりだった。
ま、この町のソレも似たようアレかもしれないが、三日間も滞在してダラダラしてるだけってのは余りにも寂しい。
特別な物は何もなくていいし、とにかく行ってみりゃ何かは得られるだろう。
しかし物好きだねぇ、オレも…
(おっ?やっと集落っぽいエリアに入ったけど………いや、ここはまだモンさんミシェルの村じゃねーな。ここらの農家の集落か)
んな事はどうでもいいけど腹へった。
そろそろ商店のひとつでも出てきたら助かるんだが………
(あ、ここも閉まってるか。やっぱりセブンイレブンに行ってから来りゃ良かったかなー)
これより先に店はないかとGoogle Mapで探してみたが……あるわけねーわな、こんなとこ。
(あ~あ、しゃあないな…)
ペットボトルの水を片手に、閉まっている商店の前で一服タイム。
と……
ギャギャギャン!ンゴエッ!ンゴエッ!ギャギャギャーン💦💦
道を挟んだ向かいの民家から響き渡る、断末魔の様な叫び声。
一体何事かと見てみたら、そこにはズタ袋の中で暴れまわる何かの動物と、それを持った上半身裸のオッサンが角材を振り下ろしているところだった。
(あ………犬や………)
角材を振り下ろす度に弱々しくなってゆく犬の声。
更に驚いたのは、その兄弟と思われる放し飼いの犬達が固唾を飲んでその場面を見つめていた事だ。
この犬達は明らかにこのオッサンの飼い犬なのだが、それはペットとして飼っているんじゃない事だけはすぐに理解出来た。
バサッ…
その横で燃やしていた焚き火の中にズタ袋ごと放り投げるオッサン。
後ろでは、これまた上半身裸の肋骨オヤジがニコニコしながらそれを見ていた。
(て事は、このオッサン達はラオス人か…)
いくら田舎でも、今時犬を食べるタイ人は中々いないはずだ。
これは差別でも何でもないが、タイに比べるとラオスの田舎じゃ犬食なんて珍しくない。
犬はペット、犬は友達、犬は家族。
そう思ってるのは他に食べる物がある人達の妄想で、この人達からすれば鶏や豚と何ら変わらない家畜なのだ。
『いや、犬は賢いから食べちゃダメ』
なんてアホみたいな理論は全く通用しない。
皆さんがいつも食べている牛肉だって同じ事。
牛は農場から搬送される瞬間から死を悟っていて、屠殺台に乗せられる直前には物凄い力で抵抗し、涙を流す生き物だ。
そんな動物が賢くない訳がないが、『牛は最初から家畜だから屠殺してもいい』という考えは完全なる間違いであり、それは犬や鯨やイルカにだって言える事だ。
今はどうだか知らないが、豚を屠殺する場合は電気棒を使って気絶させてから解体していた。
『豚はブーブーうるさいから』と言って笑っていた職員の顔は今でも忘れられない。
牛だってモーモー鳴くし、犬だって上に書いた通りだ。
それらは気絶している間にベルトコンベアに乗せられ、首を落とされ、内臓を抜かれ、それぞれのパーツが何人もの職人によって整理解体されてゆく。
で、最終的には半身に割られた【枝】という状態で精肉店に到着し(←30年以上前の話)、それを更に店の職人がパーツ分けして店頭に並ぶのである。
スーパーのパックでしか肉を見た事がない人は、それを見て『美味しそう~♪』としか思わないだろう。
『すき焼きにするならどれ~?』『ステーキならどれ~?』と迷うのはさぞかし楽しいだろうが、それがもし犬だったらエライ事になるんだろうな。
が、このオッサン達は子供の頃から犬を食べ、それは貧しい家族にとっては祝いの食材でもあり、腹を空かせた子供達に与えられる最高のご馳走でもあったのだ。
そんな人達に向かって言えるか?
『犬は賢いから食べちゃダメ』って。
「ⅩзфкЮтъьанф?」
「〒‡адⅩн§зфцт!」
何を話しているかはタイ語じゃないから解らんが、おそらく『そろそろ毛は焼けたか?』とか、『もうちょい焼いてから』とかそんな感じだろう。
肋骨オヤジがニコニコしながら見てたのは、それはやはり『お祝い・思い出』のご馳走だからであり、そこには残酷性など微塵も持ち合わせちゃいないのだ。
(家畜なんやな……この人達にとっちゃ……)
黒焦げになった物体を、今度は鉈の背で素早く擦り取るオッサン。
それを次にどうするのかは知らないし、見たくもなかった。
オレだって犬は大好きだし、食材としての認識は持っていない。
が、それを見て野蛮だと決め付けるのは絶対違う。
おかげで空腹感がどっか行ったわ…