前回の話はコチラ↑








「アメリカーノ?」


「アメリカーノ」





民宿FUJIを後にして十数分後、オレは【ワット・サーンナー】という寺が有名なエリアでアイスコーヒーを飲んでいた。


何の変哲も無い郊外のカフェなんかに立ち寄ったのは、ただ単に暑さでへばっていたからだ。

大体、暑い時季に暑い国を旅するなんて頭がおかしいと自分でも思うのだが、行き帰りの荷物の量を考えるなら今が楽なのだ。冬場の旅が困るのはそこである。





「……ブハ~ッ!あ~旨っ!」





アメリカーノという呼称はタイだけで浸透してるのかもしれんが、砂糖とミルク抜きのコーヒーを指す時はこう呼ぶ様だ。

近年ではやっとタイ人にもブラックを好む人が増えてきた様だが、それでもまだまだ甘ったるいコーヒーが一般的である。









チェンラーイはコーヒーの産地で、こんな感じのカフェが至る所にある。
が、オレはセブンイレブン(日本)のコーヒーが一番好き。






氷がザクザク入ったアイスコーヒーにホッとしながら、何気なく対応した女性の動きを目で追っていた。
カフェの奥は自宅になっているのだろうか?幼い子供達の声が賑やかに響いている。




「Are you tourist?」



いきなり投げ掛けられた英語に驚き、激しく尿漏れしそうになった。
観光地ならともかく、タイの田舎なんて日本と同レベルくらい英語が通じないからだ。




「ah……yes」


「Korean?」


「No,Japanese」


「Where you go?」


「Chiang khong」


「Awesome!」


「How come?」


「My hometown」


「Oh……




そっか、このママさんはチェンコーン出身か。

自分の故郷に自信を持てるって、何だか知らんが素晴らしいな。






「Where you go, after Chiang khong?」


「I have no idea」


「To Laos?」


「No」


「Why  you don't to go Laos?」


「Why?……ん~~っ………Are all border the same?」






言いたい事は分かるんだが、オレみたいな低学歴に怒濤のイングリッシュトークはマジでしんどいわ。

つか、あんな田舎町出身の娘が、何でまたこんなに流暢な英語を喋るんやろ?

オジサンは心から恥ずかしいです。だから、あんまり続けて質問しないで下さい、アホがバレるから( ノД`)…






「え~っと、何だっけな?………ニンディー・ティー・ダイ……フーチャック?」


「Oh! you speak Lao!?」





ラオス語で『はじめまして』と言ったつもりだったのだが、どうやらちゃんと通じたらしい。

国境の町チェンコーン出身という事は、その多くがラオス語が通じるか、またはラオス出身の人達が大多数だ。

つか、英語が苦手だから逃げたつもりだったのだが、その喜びようからして逆効果だった気が……






「цщゑикЮзна?цⅩ〒〒ьн!」






ま、そうなるわな?余計な事したわ。






「Wait,wait,wait! I don't speak Lao.Just say hello and nice to meet you. that's it」




聞けばこのママさん、両親ともルアンナムター出身のラオス人らしい。

ルアンナムターっていえば一泊する予定だった街だ。あ~あ、本当なら今頃はムアンクア辺りでのんびりしてたはずなんだけどなぁ…









それが何故かいつも通りのバイク旅に。
ま、これはこれで楽しいんだが…






「Thank you. I have to go」

「O.K. Have a nice day」

「You too」




ただそれだけの会話だったんだが、今まで割と暗めの店内だったせいか、外の明るい場所まで見送りに出てくれたママさんを見るまでは気付かなかった。





めちゃめちゃ可愛いやんこの人( ; ゜Д゜)



程好く肉付きのいい、コーヒー味のパピコみたいな肌の色とスタイル。

ラオスの田舎者特有のはにかむ様な笑顔に、クリクリッとした瞳。

飾り気は無いが、ニコッとした瞬間に溢れ出る小悪魔の様な色気…



あぁ……もしこのママさんと手を繋いで河原を散歩出来るなら、川で泳いでるガキンチョどもを延縄漁船で一掃してもいいぞ。
そしてその晩は、焚き火の前でシェリー酒を吹きかけ合う様なジャングルナイトを……






(しまったああ~っ!やっぱり無理してでも民宿FUJIに泊まるべきやったか!?それなら毎日ココに………ああああああああーっ!何が『もう行かなきゃ』だっ!チェンコーンの予約なんかキャンセルしてでも留まるべきとちゃうんかっ!?)






「あ……あの………」

「………?」

「あ、ちゃうわ。Ah~……Do you have any hotel recommendation in Chiang Khong?」

「Oh…I don't know, I've never stayed in a hotel before」

「あ……そっか、出身地だもんね。あはは…アハハハハハ!ソーリーソーリー(^^;」

「……??」










その数分後。



何故だか知らんが、この町の通りは道路沿いに可愛らしい花が沢山植えられていて、そのポエムみたいな愛らしさが余計にオレをブルーにさせる。


どうしてFUJIへ先に行ってしまったのか?(←行き道だったから)

どうしてチェンコーンの宿を予約したのか?(←常宿だったから)

どうして写真の一枚でも一緒に撮らなかったのか?(←恥ずかしかったから)






(どうせ掻き捨ての恥やのに、何でオレはそういう事が………ぬああああ~っ!何か猛烈に胸がシクシクするぞっ💦)





頭の中で、カマチノリコのSWEET MEMORIESがグルグル回っていた。
ペンギンズバーのマスターなのかオレは?




ジュンイチは言った、『不倫は文化』であると。

シンタロウは言った、『もうパンツは穿かない』と。

そしてオレはこう言おう、『何事も諦めが肝心だ』と…







(How come you are so cute?くらい言えば良かったなぁ…………あ~あ、何か無性にあすなろ白書とか読みたい気分やわ。アカンなぁ……)




日本にある外人パブの女にドハマリする残念なオヤジ達。





そんなオヤジ達の気持ちが、今更ながら少しだけ解った気がした。





ルビー・モレノは元気にしてるんだろうか?














やたらと綺麗だったワット・サーンナー近辺の通り。
いがらしゆみこの親族一同が買い占めでもしとるのか?ここら一帯は。