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明日の夜はフェリー泊の為、今年の帰郷ツーリングで実質最後に泊まるのはココ、安心院(あじむ)である。


ネット情報では、1泊2食付き3000円という超破格の値段だった。

ここまで安いと、最早料理が美味いか不味いかなんてどうでもいいと思うのが小市民の特性なのだが、利用者によるクチコミでは美味いという意見が殆んどではないか。



う~~~~ん………ホントかなぁ??



こういうのはレストランとしてのアレじゃなくて、所謂安宿で食べる料理の割には……ってヤツだろうとは思うけどね。

そういう意味では南阿蘇のライハは良かったが、あそこもクチコミで絶賛されてるほど美味いのか?って言われたらビミョーだな。

【料理上手な奥さんによる家庭料理】ってのが正しい表記だと思う。


つーかさ、『この宿の主人は元シェフで、出てくる料理は高級店に負けないくらい美味しいです』なんてカキコミをしてるガキライダーどもに1つだけ言っておくが、そもそも1泊3000円の宿に泊まって歓喜してるガキンチョが高級店の何を知ってんねん?って話なんだわ。

別に高級店だったらどこも旨いとは言わんが、北海道に行く度『セコマのペペロンチーノは…』とかのたまってる無職が何を知ったかぶりしとんねん?

訳の分からん事ばっかりカキコミしてんと、まずは高級店に自費で行ける様に働けっ、バカタレがっ。








「ちょっとどゆこと?コレ」









アホが書いたネットのクチコミにプンスカしてるうちに宿到着。
あの~スミマセン。実はワタクシ、1ヶ月以上前から予約してるんですけど。





フレンチかぶれのタワマンマダム風に言えば、【アートとアンティークのマリアージュ】みたいな感じになるのか。
オレに言わせればただの廃材置場になるのだが、どうやらそんな外観の倉庫が1ヶ月以上前から予約したライハだった様だ。





(本日休業……って……いや、寧ろそうしてくれた方が嬉しい気もするけど………この近所にビジホとかあったっけ?)




ネットの写真である程度の想像はついていたのだが、実際に見てみるとマジでボロい建物である。

で、【外観はボロくても中は意外と】みたいな宿は結構あるし、実はそれだけを期待していたのだが……





(つーか、敷地内もゴミだらけやないか……)




無造作に置かれた材木・鉄筋の他には、何故かボロボロになった小さな漁船まで置いてあり、それは既にアチコチが朽ちかけて使い物にならない状態だ。冬季は薪ストーブにでも使うのだろうか?





(アカン、やっぱりこれは今のうちにバックレるべきやな。いや待てよ?もしかしてオレ、クレジット決済してたっけ??)




当日現金払いか前払いのクレジット決済だったかをド忘れし、慌ててスマホをチェックするも中々開かない。

さてはナビの使い過ぎで重くなってんな、クッソ~…





「あ………」


「え?………あ、こんちは」




確認にもたついていると、建物の脇から小汚ない初老の男性が姿を現した。

多分、あの漁船で漂流の末辿り着いた元アザラシ漁師だろう。





「予約した人?」


「えっ!?……あ~、ハイ」




しまった……何故オレはこれほど肝心な時に嘘が付けないんだろ?

ダウジングしてたらここで反応したとか、誤魔化しようならいくらでもあったやないかっ!





「どうぞ」


「あ………きゅ、休業じゃないんですか?」


「あぁ……ランチっていうか、レストランは休業中」




レストラン………

こんな廃墟で昼メシ食いたがるマニアがいるのか?この辺りには。主人の格好からして保健所の許可下りんぞ、大阪なら。







やはり嘘付いてバックレれば良かったとひたすら後悔するオレ。
雑然とは、この廃墟宿のためにある言葉だと確信した。




「え~っと………風呂は入って来た?」

「はい」

「あ、そう。じゃあ荷物はこっちに…」



荷物か………荷物は持ち込みたくねぇなぁ、この廃墟には。
つーか、テーブルの上にある灰皿とか食いカスとかいつから置きっぱなしやねん?
オレがホームレス時代に住んでた代々木公園の方がよっぽど綺麗やぞ?




「今日は貸切りやけん、好きな布団使っていいよ」



好きな布団って………いやいや、最初っから敷きっぱなしのコレ??
いやちょっと待てって。誰かが使った後はちゃんと干してるんやろな?そうは見えんけど。
すいません!いくら探しても好きな布団が見当たらない場合は泣き寝入りしたらいいんでしょうか!?






客室という名の拷問部屋。
写真には写ってないが、右側には湿気で重くなった布団が敷いてあった。




12畳程の隔離室ドミトリーに絶望感満載で座り込むオレ。
僅かな希望はエアコンだけだ。あれがちゃんと作動するなら近所に見えたコンビニで大量の酒を買い込み、記憶が飛ぶまで呑み続けて寝てしまおう。





(うわ、きったねぇなぁ……)




ゲストハウスやライハに有りがちな、油を吸ったコミック本。
数えきれない程の手洗い不履行ライダー達が鼻糞をほじり、奥歯に詰まったスナック菓子を小指の爪で掻き取りながら読み耽っていたのだろう。
やっぱり酔い潰れて気絶するしかないのか、オレは。







「夕飯は何時がいいんかな?」


「夕飯………あ…」


「うん、夜と朝と付いちょんけん。7時くらいでいい?」


「はい………」






うん





とりあえず酒買いに行こ。











オレが宿主なら確実に燃やすベタベタ本セレクション。
そしてこの後、更なる悲劇が……