前回の話はコチラ↑
(アカン、こりゃもう全く話にならんわ……)
8月3日の話である。
バイクで走ってでもいなけりゃ焦げ付きそうな炎天下の中、何でまたオレは潜伏キリシタンの秘密基地探しなんかしてるんだろうと意味が分からなくなりかけたが、理由はどうあれここまで来たのだ。せっかくだから場所だけでも突き止めたい。
そもそもオレみたいなひねくれ者は、皆がこぞって写真を撮りに行きたがる名所には余り興味が無い。
興味が無いというか、やはりそういう場所は常に人だかりが出来ていて居場所が無い様な気がするのだ。
で、有料である。
前にも話したが、例えばモナリザが大阪の美術館にやって来るとする。
『おー!モナリザかあ、本物見てみてーなー!』とは思うが、安くないチケットを買ってまで本当に見たいのかと自問すれば、実はそうじゃなかったりもする。
『ま、人が涌いてる場所でチラッと見るくらいじゃなぁ…』とかなんとか自分に言い訳をして結局は行かないのだが、本音を言えば心から見たいという気持ちが無いのだ。
子供の頃から色んな場面で見て来てはいるが、『こんな眉毛の無い変なおばちゃんのどこがいいんやろ?』くらいにしか思わなかった。
つまり、昔から【人がいいと言ったからこれはいい物だ】という流れを素直に受け止められず、流行りに関してはどこかで必ずハミゴ状態になっていたのはそういう事だろう。
因みに酒に関しては今も変わらずそんな感じで、プレミアム焼酎なんかを有り難がって呑む人達の感覚など解るはずもなく、ワインに至ってはギンギンに冷やしたチリ産の安物が一番好きだ。
ウチにもワインしか呑まない老け顔の30男が時々来るのだが、『先週予約して行ったワインバーではオリが出てて…』等といじめられッ子みたいな顔で呟くのである。
(オリが出る……コイツは生理不順なのか?)と考えたりもしたが、元々ワインが好きではないオレの知識なんてそんなものなのだ。
結局、その時に興味が湧いた事にしか頭が行かない。だからこんな辺鄙な旅になってしまうのだ(←なげーよ)。
(……ここって営業してんのかな?)
日陰に入りたいと、建物の軒先にバイクを滑らせた。
と、その二軒隣がどうも理容室っぽいのだが、営業しているのかどうかはイマイチはっきりしない。誰かいるなら話を聞いてみようと中を覗いてみた……
「すみませ~ん…」
「は~い」
どうやら普通に営業していた様だ。
いや、田舎の散髪屋って店舗付き住宅の店ばっかりで、開いてんのか閉めてんのかハッキリしないところが多すぎるんだわ。
で、出てきたのが多分オレと大して変わらない年齢の旦那さんだった。これはチャンスだ。
「あ、お忙しいところすみません。ちょっとお聞きしたい事がありまして…」
「はいはい、何でしょ?」
「あの……この辺に、一ツ木地下礼拝堂っていう、潜伏キリシタンが礼拝してた洞窟みたいな……」
「一ツ木の礼拝堂?はいはい、ありますね」
ビンゴ!←古い
「あっ!ご存知ですか!?いや、何回グルグル回っても分からなくて、地元の人に聞いてもあの…」
「あ~…ハハハッ♪年寄りに聞いたんでしょ?それは逆に知らないですよ、隠れキリシタンじゃない限り」
「どういう事ですか?」
「あそこはオレ達くらいの世代の遊び場っていうか……まあ、胆試しの場所だったりとか。多分、もうここら辺にキリシタンとか残ってないと思うんですよ。だから今行っても草ボーボーで…」
「あぁ…入口が見えない?」
「うん、あそこに小さい山があるでしょ?小高い山」
「はい、さっきから何回もあそこに行ってます。でも、普通に民家の庭に入っちゃうんですよ」
「それで合ってます。その家の方に入って行ったらあの辺りの人のお墓があるんで、それを通りすぎた藪の中。でも俺が最後に行ったのはもう……40年以上前かな?笑。多分入口は分からんごとなっちょんと思うけど……」
「あぁ……あるとしたら、どういう入口があるんですか?」
「横穴じゃなくて縦穴。昔はハシゴが立ててあったけど、今はどげぇなっちょんのかなぁ?……んで、石が二つ積んであって、上に乗っかってる石を動かしたら十字架が彫ってあるわ。子供ん頃は意味が分からんかったけどねぇ……まあ、大昔はあそこでお祈りしよった人が結構おったんやろうね」
「なるほど……分かりました、ありがとうございます!」
「それを見に大阪から来たんですか?」
「あ……ハハハッ♪いやいや、まあ…これはついでです。ちょっと興味があったんで」
「あ、そうですかー……じゃあ何か、日本一周とかしてるんですか?」
「いえ、まあ…里帰りも兼ねた観光みたいなもんです」
「里帰り?生まれコッチですか?」
「はい、別府です」
「別府?何でまた別府の人がこげな田舎にwww」
「別府もまあまあ田舎ですよ……この先の直入にちょっと縁があって……そのついでです」
「直入!?またエライ田舎ですね笑。親戚がいるんですか?」
正直、答えるかどうか迷った。
ま、こんな田舎で話したところで別に害は無い。
「………はい、母親の郷なんです。じゃあ、もう一回チャレンジしてきます!ありがとうございました!」