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白良浜を過ぎると本来の和歌山に逆戻り。
いや、これでいいんだって和歌山は。
どう考えたって力業が過ぎるし、冷静になれば絶対入らない様なギャラリーもポツポツ見かけたが、やはり観光地というのは有名になると正気を失うんだろうな。別府が正にそうだから解る。
誰が入るんだ?こんなとこ。
さて、リゾートエリアを過ぎて冷静さを取り戻した和歌山は美しい。
至る所に点在する熊野古道ルートや、王道の農着で畑仕事に精を出すご婦人。
そんな風景の中に身を任せると、県道沿いのベンチに上半身裸で座っている爺さん達こそが自然な姿だとも思えてくる。
うん、やはりオレには街やリゾートは似合わない。
ここからは本来のペースで旅をしよう。
出来ればエスカレーターで巡りたい。
「そこはバイク入れません」
田んぼの畦道を抜け、迷路の様になった民家の路地へ入ろうとするオレに注意する婆さん。
「あ、すみません!失礼しました」
全く人がいない様に見えても、実は誰かが見ているというのが田舎のセキュリティだ。
オレの実家もそうだったが、普段は鳥の鳴き声しかしない場所にエンジン音が近付いて来ると、必ずカーテンの隙間から覗いていたもんである。
「そっちは行き止まりよ~」
「そうなんですね、ご親切にありがとうございます」
全然信用してくれなくても構わないが、こういった場所でのオレは保険会社のセクハラ課長くらい丁寧な話し方をする。
「どちらに行かれるの?」
「はい、この近くに樺太から引き揚げた増田さんという御宅があるとお聞きしまして」
感染者が爆発している大阪から、『人とのふれあいを求めてリハビリ旅をしている』なんて事は口が裂けても言えない。
ましてやオレオレの受け子と思われても困るしな。
「樺太……ちょっと聞いた事ないねぇ……」
「そうですか。いえ、私も網走の歴史資料館からお借りした里見八犬伝を頼りに調べているもので、おそらく今は墓所しか残ってないのかもしれませんね…」
我ながら、次から次へと適当な言葉がよく出るものだと感心する。
が、いくら何でも里見八犬伝はまずかったかな?
これくらいの年齢なら、もしかしたらそういうのには詳しいかも。
「サトミ……あ~、里見さんなら郵便局の向かいにある家ですよ」
うん、全く通じてなかったな。
心配して損した。
田舎の爺ちゃん婆ちゃんと話すのは楽しいが、流石に今は時勢が悪い。
ここはひとまず雰囲気を楽しむだけにしとかないとな。残念だけど。
(あ……容量少なくなってきたな、これはイカン)
スマホに表示された警告通知を見て、そういえば地獄宿でしかWIFIを使えてなかった事に気付く。
毎回そうなのだが、道の駅を利用しなさすぎるのも考えものである。
キリが無いし、トイレくらいしか使わないので滅多に寄らない道の駅。
が、Wi-Fiは勿論の事、この季節はエアコンが効いているだけでも有難い。
チャリダーの兄ちゃんがスタンプ集めに夢中な様だったが、それも金がかからなくて素敵な趣味に思えて来た。
少なくとも、昨夜の地獄宿よりは千倍マシだ。
(はぁ~涼し♪めちゃくちゃ快適やないか)
キッパリと冷房の効いた休憩室。これが無料なんだから感謝しかない。
本当に何だったんだ?あの罰ゲームナイトは。
ブーッ、ブーッ、ブーッ、ブーッ…
スマホがブルッたので見てみると、そこに表示されているのは地獄宿ではないか。
(なっ!?……あ~、そやったな。ウハハハハハッ♪)
一瞬その登録名を見てゾッとしたが、よく考えたら思い当たるフシがある。
昨夜、あのオッサンがトイレに行っている間の事だが、例の落書き帳みたいなチェックインノートに記入したオレの個人情報をグジャグジャに塗り潰しておいたのだ。
何でそんな事をしたのかというと、あのオッサンはオレがチェックインする前から酒を呑んでおり、その酔いも手伝ってか、そこに書いてある過去の利用者についてアレコレ説明し始めたのだ。
【ライダーハウスとは、オーナーの厚意によって成り立っている施設である。一般的な民宿や旅館と同じ様に考えてはならない】
SNSでこう主張したチンパンジーに改めて言いたい。
普通、いや、絶対にだが、その一般的な民宿や旅館は客の個人情報を他の利用者に見せたりはしないものである。
二回目に予約の電話をした時の話だが、あのオッサンは電話口でオレにこう言ったのだ。
「あ~、こないだ電話くれた人やね?○○屋さん?」
オレの電話番号をググって店を知ったのだろうが、普通の思考を持つ者なら、そんな事は分かってても言わないものである。
ただただ気持ち悪いとしか言い様がない。
ま、それならそれで住所まで分かってる訳だ。なので記帳した分は消したって構わないだろう。
困るのは、昨夜の様に誰彼構わず個人情報を晒される事だからな。
この際だからハッキリ言っておこう。
バカなのか?マジで。
あれは光らせてはいけないんだが、あのライハには発射したいと思った。