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「大阪はどの辺?」





旅の落書き帳に記入した住所は、これで何の役にも立ってない事が分かった。

チェックイン後に起きた一連の地獄は、目の前のメシを食い終わらないとまだ続くという事なのだろう。





「さっきそこに書きましたよ?」





開きっぱなしの状態で目の前に置かれた予約帳。

オレより前に利用したのは福岡から来た男二人の様だが、遥々和歌山まで来てこんな宿に泊まった事をさぞ後悔しただろう。次回は無理せず、日帰りツーリングで野間大池にでも行ってくれ。その方が価値ある一日になるはずだ。







とりあえず素泊まりにした事だけは正解だった。豆腐以外はいつもと変わらんのがオレ流だ(←悩んでも同じ)。





「あ…あ~、そうやったね。○○って言うたら、○○○がある所かぁ。ボクは元々大阪におったからねー、結構近くに住んでたんやわ」


「はい、最初に電話した時そう言ってましたね」





そうなのだ。
この宿にはちょっと前にも電話していて、このコロナ禍でも営業しているのかどうかを確かめていたのである。
んで、こっちは仕入れに出る前に確認だけしたかったのだが、その時も『どこから来るのー?』から始まって『あ、大阪?大阪のどこ?え?○○?ボクもその近所に住んでたよー』てな調子で話が終わらず、『すみません、また決まったら予約しますので』と無理矢理電話を切ったのだ。つまりはそういうオッサンなのである。






アジフライの他もいつもと同じ。
こうなる理由はオレにも分からん。





「で、これは何て読むんかな?」




だからっ!走り書きしたから読みにくいかもしれんけど、二週間前にも言うたし二日前にも言うたやろがっ!!
ギャラリーもいてへんのに、こんな所でドリフのコントやるつもりなんかあらへんねん!!一回医者いけっ!頼むからっ💢💢




(アカンわ、サッサと食ってしまって散歩でもしよ。そやないと頭おかしくなる)




「でも本当にグッドタイミングやったねぇ。ボクも29日からまた旅に出るから、その前に泊まれて良かったわ」


(そうなんや?ソレを知ってたら29日に来てたんやけどな)



「今回は青森に行こうと思ってね、前に停めてある車で」


(マジか?オレの東北行きは8月後半にしといて
正解やったな。もしかしたらコレ、亀の恩返しか?)



「色んなとこ行ったよ、若い頃は……」


(なあ……遠い目で聞いてもない事語るのは勝手だけど、アンタさっきから何で隣に座ってるんや?なんぼでもテーブル空いてるんやし離れて座ればエエやないか?んで、図書館から今日借りて来たとかいうその本やけど、頼むし自分の部屋で読んでくれへんか?落ち着かへんねん、メシ食ってる横で本開いたまま独り言言われるの)







オッサンがトイレに行った隙にタイトルを激写。
有料エアコンに続く悪徳商売でも企んでるのだろうか?






「ここは、オープンしてすぐにテレビの取材があってね。で、その時に来たのがホラ、あの人!」


「あぁ、そうなんですか」


「誰か分かる?あの新聞の切り抜きに写ってる人」


「いえ、分からないです」






分からないというか、メガネを外してるから見えないのだ。
つーか、そんな十数年も前の事を嬉々として話されても困るんですけど。オレ。





「火野正平よ、火野正平!いや~、オープンしてすぐやったからねぇ、あの人が来たのは……何かこう…何て言うんかなぁ?そういう運命やったんかなぁ?面白いねぇ……」




『単にテレビ局がネタに困ってただけとちゃいます?』と言いかけたが止めといた。
残りのマカロニサラダを食ったら散歩行こ。






「ごちそうさまでした。ちょっと散歩して来ますね」


「あ~、ちょっと涼しくなって気持ちエエと思うわ~。ボクもニュース7見たら寝るから」

「随分早いんですね?いつもこの時間に寝てるんですか?」

「う~ん、まあ客がいない時はそうかな」





あの~…






いや、何も言うまい。






散歩行ってこ。












19時過ぎにはこの暗さ。
が、宿で悪臭に悶絶するよりはマシか。
とりあえず秘密のトイレを探しに行こう。