「すんません、切符はどこで買うんですか?」



真っ暗闇の道を10分程歩いて着いた二見浦駅だが、どこでどうやって乗車券を買えばいいのか分からない。

つか、伊勢辺りは全て自動改札と思ってたら違うんだな。田舎をナメてたわ、オレ。




「あぁ、電車に乗ってから払うんですよ。多分車掌さんが回ってきますんで」




どうしていいか分からず、改札の前で乳児を抱いていたヤンママっぽい感じの姉ちゃんに聞いて安心するが、それでも言ってる意味はイマイチ分からない。

要するにタイと一緒なのか?ココは。胸の谷間にタトゥー入ってたし。




(何かよく分からんけど、とりあえず乗れって事か…)




近鉄なんてのは普段から乗っているし、オレが住んでる場所だって中途半端な田舎なのだが、言ってみりゃ世界中から観光客が来る様な伊勢エリアでこんなシステムがまかり通ってる事には流石に驚いた。

二見浦というのは、福岡で言えば筑豊とかそんな感じなのかな?

二見浦が金田で、鳥羽が直方みたいなもんか。

で、伊勢が飯塚くらいな感じ………って、こんな例えが分かるのは一部地域の福岡県民くらいだな。

その他の地域の方には申し訳ないが、ついでに言うと【はちがとぶ】の替え歌で糟屋郡の歌を唄えるのも、丁度オレくらいの年代の福岡市内在住者だ。


因みに、こんな歌詞である。



♪ぐんぐんぐん  糟屋郡


宇美町 志免町 須恵町 篠栗


ぐんぐんぐん  糟屋郡♪



とまあ、こういった糟屋(かすや)の田舎モンをバカにする歌なのだが、オレみたいなド田舎モンからすれば糟屋郡はあの原武祐美の出身地なのだから恐れ入る。


……え?


原武祐美が誰だって?

それは是非自分で調べていただきたい。


つーか全然関係ない話だったな、スマン。






20分ほど待ってやって来たワンマン列車。
驚くなかれ、乗客は写真のカップルとオレの二組だけだった。




バスの料金箱みたいなもんに代金を払い……ってコレ、完全にバスのシステムじゃねーか。

一緒に乗ってたカップルも旅行者らしく、オレと同じくらいテンパってたみたいだが、【田舎電車の支払い講座】を10秒ほど受けたところで無事降車。

所変わればシステム変わるのは仕方のない事だが、あまりに一般的じゃなさすぎてサンフランシスコの路面電車を思い出したぞ。頼むしデカデカと説明書でも貼っといてくれ、マジで焦ったわ。





このシステムが、後々悲劇を巻き起こす。





(鳥羽か………鳥羽に着いたはいいけど真っ暗やないか。店とか開いてんのかな?)




20時前に立った鳥羽駅南口は、Google Mapで調べたイメージとはうって変わってひたすら闇だ。ポツンポツンと灯っている街灯が余計に侘しさを駆り立てている。




(ホンマに店あるんか?コレ……)






一見数多く集中している様に見える鳥羽の繁華街。
が、良く見たら数軒しか出てねーな。つーか海女小屋って何よ?めちゃくちゃそそるやんか…




(あ…海女小屋!? 海女小屋ってスゲーな。あの薄手の白装束が海水に濡れてピタピタ状態になった熟女が……いやいや、まさかそんな事はねぇか。高橋惠子みたいな姐さんが、頭に水中メガネ引っ掛けてサザエの壷焼き持って来る様な感じなんやろな。いや、それでもかなりそそるけど…)



勝手な想像に胸を膨らませながら店に向かうが、やはりというべきか看板は消えていた。
オレが期待を寄せた店というのは大体がこんなもんである。
つか、後で調べてみたら【海女さんが待機している小屋をイメージした店】との事。
これって完全に看板詐欺じゃねーか。言うなればハトヤの海底温泉がホテルの3階にあるのと一緒で、無垢なオッサンの恋心を持て遊んでるキャバクラ姉ちゃんみたいなもんだ。根本からやり直しっ!




「あっ、あの~、ちょっとお伺いしたいんですが」


「えっ!? はい」




完璧に終わった感のある、土産屋や旅館が並ぶ小路。
そこで、校長職を解かれて意気消沈した赤木春恵みたいなおばちゃんに声を掛けてみた。
オススメの店を聞くにはもう少し若い地元民にした方がいいのは分かっているが、なんせ歩いてる人を見付ける方が難しいのである。




「ここら辺で、美味しい居酒屋か小料理屋ってご存知ないですか?」


「あ~……夜は閉めてる店ばっかりですからねぇ、コロナで」


「あー、やっぱりそうですか。すんません、お手数お掛けしました」


「あ、でも焼鳥屋さんなら開いてるかも」




鳥羽に来て焼鳥か。ま、それでもコンビニ飯になるよりは全然マシだ。




「焼鳥、いいですね♪どこにあるんですか?」


「このまま真っ直ぐ100mくらい行ったら右側にありますよ。人気の店なんで、空いてるかどうか分からないですけどね」




ナヌ?こんな所に人気店が??
ま、さっき調べた店は開いてたには開いてたけど、県外からのお客様は御遠慮下さいやったしな。あんまり期待せんとこ。




「ありがとうございました。とりあえず行ってみます」






こんな辺鄙な場所にタイ料理屋が……
どうでもいいけどスペル間違っとるぞ。
PATAYAじゃなくてPATTAYA。




(マジで真っ暗やないか……ホンマにあるんやろか?こんな所に……)




赤木春恵が自信を持って薦めてくれた焼鳥屋がある方向へと歩いて行くが、そこに繁盛店と思える様な佇まいの店は一軒も無かった。
つか、営業している店自体が全く無いんですけど、ホントに。




(おっかしいな~、行き過ぎたか?)




多分休みなんだろうが、一応今来た道を注意深く見返しながら歩いてみる。
すると……




(あ、これか!?な~んや、さっきまで提灯消えてたやんか。点け忘れてたんか?)





ネットのクチコミでは確かに人気店の様だったな。
さて、その実態や如何に?




「いらっしゃいませ!」


「え~っと……一人ですけど、いけます?」


「大丈夫です、どうぞ!」




(なんや、若い大将やけどめちゃくちゃ愛想エエやないか。オレならイチゲンの一人客なんか絶対入れへんけどな。気持ち悪いし)




そう、オレの店はオレ一人でこなしている為、12年目に突入する今ではイチゲンさんの予約を全て断っている。
何でかと言うと、ハッキリ言えばそれはオレ自身が接客に向いてないと自認しているからだ。

ま、10年目までは必死になって新規重視の営業をしてたんだから別にエエやろ?
それでやっていけるんだから(←自由が一番)。




(カウンター9席だけの繁盛店か……最高やな♪)←実は座敷もあるらしい




思わず我が身と照らし合わせて嬉しくなった。










が、










オレはココでブチギレてしまうのである………












鳥羽駅のホーム、隙間が広くて危ないな。
ま、オレが子供の頃よりはマシだが、事故が起きる前に工事は絶対必要だ。さっさと何とかしろ(←親目線)。