伊良湖まで戻って来た。
一直線のR42をひたすら西へ戻る途中、可愛いヘルメット小学生に何度も癒された。
そういや、行きの静岡で残念なおでんを食った時に聞いたっけ。
『まあ場所にもよりますけど、田舎は学校が休みの時でも普通にヘルメット被ってる子が多いですよ。それが静岡だもんで』
行きも帰りも癒されるなぁ、この道は。
海より子供達にやられるわ。
最高だ、田原市。
乗船までの時間潰しに立ち寄った恋路ヶ浜。
えらい数のカメラが待ち構えていてが、田村英里子のハイレグ撮影会でも始まるんだろうか?
伊良湖港に着き、出港時間までの暇潰しでウロウロしてみる。
と、そこには如何にも中学生時代に聖子ちゃんカットを意識していたにも関わらず、結果的にはわらべのタマエ止まりに終わった女が好きそうな、【恋路ヶ浜】という名前の観光標識が出ているではないか。
こうなるとタマエファンだったオレが行かない理由が無い。
気持ちだけでも丹頂チックを塗り付け、気持ちだけでも750ライダーで、気持ちだけでもレモンスカッシュの様な吐息を振り撒きながら海岸方面へ向かってみた。
(一瞬、越路吹雪に見えたけど恋路ヶ浜か……アホなカップルが南京錠持って行きそうな名前のビーチやな)
そうは思いつつも、全国至る所にある恋人たちの鐘を嫌がらせの如く鳴らし続けてきたオッサンであるオレにとって、このベタなネーミングの観光名所を無視する事など出来るはずがない。
彼女がLO、彼氏がVEのセーターを着ているカップルでも見付けた日には、このオレの格好の被写体となってもらわねばならんのだ。
が………
(何じゃこら?ペアルックカップルどころか、30年後のヒロシ&キーボーみたいな夫婦しかいてへんやないかい…)
広々としたパーキング沿いに並ぶ、センスのちょっとズレたレストランや土産屋。
そして、そのパーキングで望遠鏡みたいなレンズを構えて折り畳み椅子に座っているサンデー爺ちゃんズ。
こんな所で高見千佳のコンサートがあるとは思えんが、それにしても全員が全員、味噌汁を啜った後に必ず『アー』と言いそうな面々である。
こんな所で一体何を待ち構えているのだろう?
一応だがオレ達もカップルという事でパチリ。
遥か向こうの浜辺に見える二人はオッサン二人組だった。
まとめて波にさらわれてほしいと本気で思った自分が怖い。
「あの~、すみません」
時間が経つにつれ、更に増えてくる望遠軍団がどうしても気になって、バイクの側にへたり込んでいるオッサンに声を掛けてみるオレ。
「え?あぁ、ハイ」
「何か、皆さん高そうなカメラ構えて集まってますけど、誰か有名人でも来るんですか?」
「有名人?ハハハ!いやいや、人じゃなくて鳥ですよ、鳥」
「鳥!?……もしかして、あの~、要するに、バードウォッチングってヤツですか?」
「そうそう、皆物好きだよねぇ。まあ、自分もそうだから他人の事は言えないんだけどさぁ…」
驚いた。
鳥は焼鳥くらいしか興味の無いオレにとって、それを写すためにあんなドデカいモンを付けたカメラを買ったりするのか!?
つーか、あんな高そうなモン買ってまで撮りたい鳥って一体何よ?
ここら辺にはまだ始祖鳥でも生き残ってんのか!?
「いや~、物好き…と言ったら失礼ですけど……だって、そのカメラだけでも凄い値段っぽいですもんね。詳しくはないですけど」
「本当にそうだよ~……趣味で始めたはいいけどさぁ、段々ハマっちゃうと金ばっかりかかっちゃうんだよねぇ。今日だってこれ、人が多すぎて全然いい場所取れねえしさぁ…」
続々とパーキングに入って来る大型車。
その中の何台かはキャンピングカーだったりもするのだが、気に入ったスペースが見当たらないのか、さっきから誰か出ていかないかという感じでグルグルと駐車場内を回っている。
(スゲエなぁ……鳥の写真撮るのに、ここまで金かけるんかぁ……)
ふと、軽井沢のゲストハウスで一緒になった野鳥博士を思い出した。
が、あの鳥ヲタ博士とココにいる爺さん達とは何かが違って見える。
あの子の場合は装備は貧弱だったが、何つーかこう……野鳥に対して、確固たる愛情みたいなもんが滲み出ていた気がするのだ(ヲタ過ぎて付いて行けなかったけど)。
それに比べると、今オレの目線の先にいる大型車のオッサン達は、折り畳み式のテーブルに弁当やスナックなんかもセットして、完全にお楽しみキャンプ状態なのである。
ま、それが悪いとは思わんし、どっちがどうかなんて事は全く思わないのだが………ココって、そういう事をする為にあるパーキングなのかね?
ま、隣接してる店なんかが潤えばそれでいいんだろうけど、どっからどう見ても完全に持ち込みバーベキュー状態だと思うんだが……
「んで、そこまでして撮りたい鳥って何なんですか?鶴?ペリカン?名古屋コーチン?」
「いやいや、鷹ですよ鷹。鷹が来るんだけどねー……今日はまだ全然」
「鷹か……鷹を撮るために何時間も……そうですかぁ……」
五日振りの伊勢湾フェリーとご対面。
何でか知らんが、帰りはやたらとバイクが多かったな。やはり浜松でカツ丼食った帰りだろうか?
待ちくたびれてヘトヘトになったオッサンに礼を言い、出港30分前となったフェリーの元へと戻る。
いや、それにしても中々衝撃的な光景だったな。
何つーか、AKBが一番売れてた時のヲタが、借金してまで秋元商法に注ぎ込んでたみたいな。何かそれに似た匂いを感じたオレは考え過ぎなんだろう。
いやマジでスゲーな、趣味の世界って。
オレもこんな事ばっかりやってないで、そろそろランバダでも習ってみるか!?
………間違いなく初日でぎっくり腰になるな。
やっぱやめとこ。
鳥羽行きのフェリーで、下船し始めた車の間に入り込んで動画を撮りだすアホライダー。
線路に入って撮影する迷惑系の鉄ヲタ同様、馬鹿は死んでも治らない。