「やっぱや~めた!」




夜10時。


大して食ってもないのにサッサと片付けられ、会計の督促を喰らい追い出された格好となったホテルのダメ居酒屋。

まあいいやと黙っていたのは、『どうせ呑むなら飯田の街で』と思っていたからである。


が、居酒屋やスナックが集中している場所はJRの駅前辺りで、オレが泊まっているダメホテルからは2km程離れている。

歩いて行くにはちょっと…な距離だなーと思いつつも歩いていたが、500m程進んだ所で全てが面倒になった。





(もうエエわ、あそこで何か食って寝てしまお)






結局はホテルの近くにあった牛丼屋で一日を終えるダメなオレ。
死ぬまで名物にはありつけない気がする。




注文した牛丼を待っている間、奥のテーブル席に座っている家族をぼんやり見ていた。

最初は正直言って、『家族で食う晩飯が牛丼屋かよ?寂しいなぁ…』等と勝手な事を思っていたが、そこで『ぼくチーズのがいい!』とはしゃいでる子供を見てるうちに、オレの考えなんて単なる余計なお世話だという事に気付かされる。

大人の考えなんて、本当に勝手なもんだ。

本当に美味い寿司を食わせてやりたいと、まだ小さい子供を高い寿司屋に連れて行きたがる親の気持ちも分かる。

でも、子供からすれば、おもちゃが付いて来る回転寿司の方が楽しいに決まってるもんな。

オレの店では未成年の入店を頑なに断っているが、その一番目の理由は親が子供を放ったらかしにするからだ。

自分だけでなく、いい食材を我が子にも食べさせてやりたい気持ちは解る。

が、酒を呑む親というのは、その殆んどが子供を放ったらかしにしてダラダラと呑む。

子供は腹一杯になれば後は退屈だ。
当たり前ながらじっとはしていられなくなる。

オレ自身は自分の店を呑み屋だと思っている為、そんな場所に子供を連れて来られるのは至極迷惑な話だ。
というか、夜中までそんな場所に連れ回されている子供が可哀想で仕方がない。

以前はよく、「マスターって、子供嫌いなん?」てな事を聞いて来るアホな客がいた。

その度にオレは、「子供が嫌いなんじゃなくて、夜遅くまで酒の席に子供を連れて来るバカ親が嫌い」と答えて来た。
それはこれからもずっと変わらない。

小さい子供はエエもんを食べたいんじゃない。
楽しい場所で、子供が好きなものを酔ってない親と食べたいのだ。
たまに酔っては暴れてた親を見て育ったオレはそう思う。

そんな事を思い出しながら、テーブル席の家族を羨ましく見ていた。



(えーパパとママがおって良かったなぁ…)



牛丼屋で晩飯。
凄くいいと思う。






話にならない朝食バイキングをちょっとだけ食べて出発。
すっかり秋の空になったなー。




「なっ……おいっ!」


翌朝7時。

R151を静岡に向かってのんびり南下していると、その先の道の駅を示す標識の手前にとんでもない看板を発見。
思わずバイクを停めてマジマジと見上げていると、地元民らしきオッサンが軽トラの運転席からニヤニヤしながらこっちを見ていた。

『どうだ、スゲーだろ』

とでも言いたげな表情で軽く頷くオッサンだが、残念ながらオレはそういうつもりで見上げていた訳ではなく、よくもまあこんな恥ずかしいモンを作ったなという気持ちでソレを見ていたのである。
思春期のオレがここに住んでたら夜中のうちに跡形も無く破壊してるだろうな。大丈夫なのか?ここの住民は。





危うくズッコケて事故りそうだった竜太の看板。
誰か止める住民はいなかったのだろうか?





(あらま~……)




もしかしたら銅像……いや、木彫りの竜太像でも立っとるんじゃあるまいかと確認の為に村へ入ったが、そこには木像より厄介な竜太アピールが待ち構えていた。
秩父の案山子も大概だったが、ド田舎というのは何故こうもトンチンカンな事をやってしまうのだろうか?
ここには温泉も何ヵ所か出ているみたいだし、もう少しマトモな売り出し方がありそうな気がするんだが……





これを見て買う物好きがいるのかどうかも分からんが、何とここは竜太の実家らしい。
オレが竜太なら村と親を訴えとるぞ、マジで。





(峰竜太…オリジナル…ワイン…マジかぁ………誰が買うんやろ………)




そして国道沿いだけじゃなく、村内にもデカデカと立てられている峰竜太のふるさとですの看板。
西部警察全盛期の40年前ならともかく、一体誰がこんな所まで竜太詣でをしに来るんだろうか?

謎は深まるばかりである。






いつか、オレも小佐々でやろうかな。






新日本下道紀行のふるさとです
ライダースハウスJUNはコチラ




余計に過疎化が進みそうだな。
迷惑掛けるし止めとこ。