ヘロヘロになりながら到着した長崎県側の港、口之津港。


幼い頃に来た事があるかどうかは知らないが、『通過しただけ』という事例も入れていいなら雲仙に来たのはこれが二度になる。




初めて来た時は、島原から反時計回りで佐世保方面へ。その途中で雲仙市を通過した。





(アカン……もう少し気持ち悪いの抜けるまで休憩していこ。雨もキツくなって来たし…)





口之津港に降りるちょっと前から、台風の影響による雨の勢いは激しさを増していた。

雨雲レーダーで確認しても暫く止みそうにないし、予約してある旅館にチェックインするには時間が早すぎる。


まあいい。

せっかく小綺麗なターミナルもある事だし、こういう時は焦らず昼寝でもして過ごすのが贅沢というものだ。







口之津港に着いた時は激しい雨。
アホっぽいカップルがギリギリに詰めて停めようとしたので、マスクを外して思いっきり咳込んだら離れていった。
ソーシャルディスタンス。




(おー!これは寝やすいタイプのベンチシートやんか、ツイてたな♪)



ターミナル内の待合室は至ってシンプル。
このあとの便は欠航が決まったせいか待ち客もいないし、昼寝ついでに濡れた上着なんかも干させてもらおう。
つか、この肘掛けの無いタイプのシートは本当に助かるな。何なら三日間くらいココに住めるぞ、オレ(←ホームレス経験アリ)。



(うわ、結構ビショビショになってたな、空調服。あとは靴下も履き替えて……と。よし、ほな小一時間ほど寝させてもらうか♪おやすみなさ~い…)



カッパを入れた巾着を枕代わりにし、久しぶりの昼寝タイムを満喫する気満々のオレ。
連泊でもしない限り、旅に出ると昼寝が出来ないのが悩みの種だ(←贅沢言うな)。



(…にしてもうるせーなぁ、アイツら)



寝る態勢もバッチリ決まり、あとはケニアの赤子並に爆睡するだけというタイミングだったのだが、すぐ側で若いカップルがピアノを連弾し始めたもんだから中々寝付けない。
今流行りのストリートピアノとかいうヤツか?
それならそれで別に構わんのだが、こういう場所で弾くならも少し練習して来いよ。所々音が外れてんのが気になって余計に眠れへんやないか……






貴重なお昼寝タイムを全力で妨害してくるユーチューバーかぶれ。
誰も聴いてないのが哀れだった。




何年か前から、ストリートピアノで注目を集めるユーチューバーが増えてきてるのは知っていた。
中には度肝を抜く様なテクニックを持った外国人もいるし、そういう動画を見るのはオレも大好きだ。

が、それに感化されたのかどうかは知らんが『オイオイ…』ってな感じのチャレンジャーがそこら辺にあるピアノを弾いている場面に出くわす事が増え、それと同時に頭を抱える様なド下手プレイを聴かされる機会も増えた。

ま、小さな子供が間違えながら弾いてるのは癒しでしかないのだが、ちょっと回りの目を意識しながらも、どこか照れを隠せないまま弾くのは止めてくれ。オマエたち以上にこっちが恥ずかしくてかなわん。



(ンプププッ……また下を弾いてる兄ちゃんが同じ場所を………ブハッハッハッハッハッ!頼むしそれ以上は止めてくれっ!つか、弾き終えた後の静けさがこそばゆ過ぎんねんって!グハハハハハッ♪)






拷問に近い羞恥演奏に耐えかね、外の東屋へと緊急避難する哀しき50代。
食堂のテレビでNHKののど自慢をやってる時と同じくらい恥ずかしかった。




(あ~もおおおお~~っ!結局昼寝出来ひんかったやないかっ!……………でもまあいっか、久しぶりに思春期っぽい甘酸っぱさを体感出来たし)




何かに憧れ、背伸びをしたくなる年頃の汁を浴びた様な、そんな感覚。

男なら、前髪の片っ方だけを上げたマッチカットで、Tシャツの袖を肩まで捲り上げてイキッてる様な。

女なら、ブラシ付きドライヤーで煙を出しながら枝毛を大量生産させてる様な。

エエな~、若い頃のイキり汁って………ブハッハッハッハッハッ!






あ~あ……何だか知らないけど、ファーストキスした時の事を思い出して窒息死しそうだわ、オレ。












アホカップルによる恥ずかしコンサートを堪能した後は、本日の宿【うぐいすや旅館】にチェックイン。
この旅一番の贅沢となる予定だった………が………