「お～そ～い～～～～ッ！」
エレベーターを降りてすぐ正面がフロント。
そのフロントの左奥には朝食会場としても使われている共有スペースがあり、おそらくグループで利用している宿泊者なんかは、ココでプチ宴会でもして盛り上るのだろう。
自販機に酒類があったかどうかは忘れたが、ぼんやりとした記憶には缶ビールがあった様な気もする(←隣のコンビニで買ったから知らん)。
「あっ、い、いやっ、タイミングが合えばって言ってたから…」
今考えてみれば、何という不必要な言い訳。
特に時間指定で約束した訳でもなく、そもそもオレとはさっき初めて会ったばっかりだ。
セクシーな女から馴れ馴れしくされるのは嫌いじゃないが(大好きだけど)、初対面の女に付き合って半年くらいの感じで膨れっ面されてもリンダは困っちゃうのである。
「え？………もしかして、もう酔っ払ってます？」
無機質な白いテーブルの上に並ぶ、色とりどりのストロング酎ハイ。それがベコッと凹ませた状態で5～6本はあっただろうか。
いやスゲーなこの女、完全に酒でやらかす典型じゃん。
「らってえ～、アタシ６時から呑んれたのにぃ～、２時間も待ってれば誰らって酔うれしょお～～？」
(イカン、こういうタイプは絶対にトラブル起こしよるな。残念やけど、とっとと逃げよう)
「あ…あの、今日はちょっと風邪気味なんで、ほら、今はこんなご時世ですし、ヤバい事になるのも困るんで……」
「らーめっ！」
「へっ？」
「そんなのらーめっ！アタシ二時間も待ってたのぉ～にぃ～」
オレの店にも、時々だがこういうヤツは出て来る。
で、一番酷い例で言うと、ソイツ(女)は酒に酔って怒り出すと手がつけられなくなるほど凶暴化し、最終的には警察沙汰で〆るという最悪のフルコースがお約束として待っている。
ま、今は出禁になっているから二度と会う事も無いのだが、酒に呑まれていつまでもグダグダやっているヤツというのは、我慢して付き合っても必ず後悔するハメになる事だけは間違いない。
百害あって一利無し。
確かになかなか可愛い女の子と呑む機会を失ったのは惜しいが、こんな所まで来て女絡みの、しかも酔っ払い絡みのトラブルに巻き込まれて旅をフイにする訳にはイカンのだ。
つーか、いい加減に止めろっつーの、レジ袋からジンの小瓶とか出すのはっ。萩原流行かオマエはっ！
(こっ……こんのクソガキ……人が大人しく羊になってりゃこのバカ女はああああーーっ！！)
……止めよう。こんなアル中に何言っても通じる訳ねーわ。
それより腹へったわ、どっか近所にラーメン屋でもねーかな？
「あ～、ゴメーン！怒っちゃったあ～？」
これがもし30代の男だったら迷わずぶん殴ってる所だが、得体を失くした酔っ払いの三十路女というのは地上最強だ。さっさとズラかるのが一番の得策だろう。
「やっぱり少し熱っぽいんで、先に失礼しますわ。おやすみなさい」
そう言い残してその場を離れ、部屋に戻るフリで夜の鹿児島市内をさ迷うオレ。
因みに、まん延防止法さえ出てない鹿児島なのに、向かいにあったラーメン屋は早々に閉めていた。
他にもないかとホテル近辺を暫く歩いてみたが、何となくオレのアンテナに引っ掛かる様な店も無く、やれやれと言った感じでコンビニのサバ缶とビールを片手に部屋へ戻った。
そういや、あの共有スペースには他にもライダーらしき兄ちゃんの二人組がいたのだが、どうしてわざわざ離れたテーブルに座っていたんだろうと最初は不思議に思っていた。
このホテルはその値段の安さがウリらしく、後で聞いた話では、貧乏ライダーの間ではそこそこ有名だったらしい。
が、そりゃそうだわな。
いくらオレから見たアイツがセクシーな女ライダーだったとはいえ、その若い兄ちゃん達からすれば結構なオバチャンだったかもしれない上、横でいきなりストロング酎ハイをカパカパ空けられ、しかも場末スナックの超常連みたいに酔っ払ってたらそりゃ引くわ。若い兄ちゃんじゃなくても。
酒って怖いよな。
ホント、オレも気を付けようと思った。初対面の人と呑む時は特に。
あ～あ
やっぱりそんな上手い話無いよな～
そう簡単には
つーか、前回の記事で書いた予想、やっぱり当たってたよな。
もう少しマシな方向で当たってほしいわ、オレのユリゲラー能力。