「うっわ、マジか!?」
離岸して行くフェリーのデッキから、大隅半島側の桜島を見て驚いた。
あの巨大な桜島が、冠雪していたからだ。
雪化粧を施した桜島。こんな写真じゃ伝わらないだろうが、とにかく美しかった。
「スッゲエなあ………」
あまりの美しさ、あまりのド迫力に暫し圧倒されるオレ。
もちろんこれまでにも桜島は何度も見ているが、冠雪した桜島を見るのは生まれて初めてだった。
(ヤッベ、一人でデカい声出してもーてたわ。いや~、でもマジでスゲーなあ…)
寒さのせいとかではなく、本気で感動して鳥肌が立っていた。
初めて富士山を見た時も感動はしたが、鳥肌が立つとかまでのもんじゃなかった。
確かに綺麗っちゃあ綺麗なんだが、桜島の場合は常に噴煙を上げているせいか、『生き物感』のレベルが富士山とはまるで違うのだ。
職員達が見送りで手を振っていたがシカトしてしまった。スマン。
「ハッハッハッハッ、ねぇ、凄かでしょうが?」
呆然として桜島を眺めるオレに、笑いながら話しかけて来る爺さん。
シッシッ、あっち行ってくれっ、この大事な時間の邪魔をすんなっ!
「私もねー、もう60年くらい桜島の写真ば撮りよるばってんが、こげんした桜島を見んのは三回くらいしかなかですねぇ」
「あぁ、そうなんですか。いや、僕も初めて見て感動しました。それではこれで失…」
「私、昔は沿岸警備隊に勤めとりましてね、それで毎日ここを往き来しよったですよ」
「沿岸警備隊…ですか?そりゃ大変な仕事をなさってたんですねぇ……うぅっ、寒いんでそろそろ失 …」
「今年で86になるけんですね、あの時はまだ24か。いやあ、子供の頃は戦後中で食べる物にも不自由しよったですけどね、あの頃から桜島はずっと変わらんとですよ」
(今年86って言ったら、親父の1つ上か。て事は昭和10年生まれで10歳の時に終戦………いかん、段々爺さんのペースに…)
「でも、毎日撮ってもですね、一枚も同じんとは撮れんとですよねえ……」
「あの~、こっちで育って、今は福岡か長崎にお住まいですか?」
「あっれー?何で分かったとですか?お兄さん、もしかして九州の人?」
「あ、はい。僕も福岡と長崎には住んでた事があるもんで」
「私は鹿児島生まれですけどね、沿岸警備隊の仕事であちこち行って、今は唐津に会社を作って住んどっとですよ。種子島には仕事でね、三ヶ月に一回は来るもんやけんが、こうやってカメラば持ってね、下手な写真ば撮り続けよっとですよ、ハッハッハッハッハッハッ!」
(なるほどねぇ、色んな人生があるもんだ………あ、いかん、すっかり爺さんのペースに…)
「今回もですね、私があっちに行くって言ったら、島の友達がみんな集まって酒盛りになるとですよ、ハッハッハッハッ!」
「あー、そういうのは嬉しいですね。やっぱり焼酎ばっかりになっちゃうんですか?」
「いや、私はビールしか呑まんとですけどね。ほいじゃ私はお先に失礼します」
…………おい
おそらく次の獲物を探しに行くのだろう。
(しっかしまあ、なんつー綺麗なとこなんやろ、鹿児島って……)
爺さんが消えた後も、暫くは甲板に残って景色を見ていた。
そろそろ内海を出る頃になると、反対側には開聞岳が見えて来る。
これも海から見るのは初めてだが、ちょっと遠いけどやっぱり綺麗だな、開聞岳。
左側に佐多岬が見えて来た。
て事は、鹿児島湾はここで終わりか。
ここから先は、オレが初めて行く場所。
でも今日は、そこへ帰る人を連れている。
何か不思議な気分だわ。