「ふああ~~~あ………昨日の夜は大変でしたよ~」




リアル悟空かと思える程の寝癖を付けたA君が、大あくびをかましながらコーヒーをいれる。


てか、中途半端に伸ばした髪ってのは寝癖がスゲーのな?

オレも20代の頃は前髪が目に掛かるくらいは伸ばしていたが、当時のロン毛っていったら武田鉄矢と江口洋介くらいだし、今の子達っていうのはトリートメントやら何やらで大変だろうねえ……

オレなんか精々メリットを洗面器の湯に溶かして頭からかぶってた程度だわ。




「ん?何かあったん?」


「結局、寝たの3時くらいでしたよ。あのカップルが喧嘩しだしたせいで」


「喧嘩?………8時には爆睡してたし、全然気付かんかったわー」


「ジュンさんマジで寝るの早いッスよね、ハハハハハッ!」




そうなのである。

日本はタイより二時間早い時差があるのだが、それにしても日本時間の夜10時には眠たくなってしまうのだ。




「日本でもそんなに早く寝てるんですか?」


「いや、日本ではまだ働いてる時間やわ」




何が原因で海外だと早く寝てしまうのかは自分でも分からんが、特にタイという暑い国では涼しい時間が貴重になる。

それで、早朝の涼しい時間を満喫する癖がついているのだとは思うんだが、それ以外は自分自身でさえ謎である。




「で、何があったん?」


「ああ、あの後彼女がここに来て、ジュンさんが勧めたホテルを断った事に対してぶちギレてました」


「そらそうやろな、自分の彼氏が何にも心配してくれてないって事になるんやし」


「んで、あの彼女、ジュンさんが彼氏に言った事、実は部屋から聞いてたみたいですよ」


「………マジか」


「そりゃ聞こえますよ、冷静に言ってたつもりかもしれませんけど、結構なキレっぷりでしたから。ウハハハハハッ!」


「朝から楽しそうですね~、おはようございま~す」




B君も起きて来た。




「いや~………面白かった~、クックックックッ…」


「なあ、オレそんなに酷い事言うた?」


「いや、正論ですよ。僕も来週からインドで三日間のボランティアを計画してたんですけど、止めました」


「おいおい、オレは別にボランティアが悪…」


「分かってます。ただ、別のやり方もあるって事に気付いたんで、やるなら日本に帰ってから日本でボランティアします」




いや、まあ日本でするも海外でするも、それはやる本人の勝手なのだが、海外では普通に貧困ビジネスってやつが確立されてる所があるからなあ…。


発展途上国を旅した事がある人なら見た事があるかもしれんが、路上で物乞いをする手足の無い人達。

例えば、タイではそんな人達をカンボジアやベトナムから連れて来て、物乞いビジネスとして働かせてるという、信じられない様な現実がある。

また、アンコール・ワット等の超有名遺跡の周りには、騙され易い日本人旅行者を狙ったボランティア詐欺師達が次々と声を掛けてくるのは有名な話だ。


人の情に訴えた、卑劣な貧困ビジネス。

路上の人達が減らないのは、その人達に小銭を与える人達がいるからであり、結局はその国の政策で何とかしないとどうにもならないのである。

何回か前の記事に、オレは『アメリカという国が好きなんじゃなくて、アメリカに住んでいる自分が好きなだけなんだろう』という様な事を書いたが、まさに彼自身も『ボランティアをしている自分が好き』なだけなんだろう。

『不幸な境遇に置かれている子供達だが、その澄んだ瞳はキラキラしていた』なんて事を平気でSNSにアップするガキには、正直言ってヘドが出る。

子供は誰でも澄んだ目をしているし、インドの子供なんかギラギラしとるがな。子供相手にオリガミ折って、下らんマジック見せるのはアホな大学生が就活ネタに使うのがオチ。

全く無名のストリートミュージシャンが、被災地の老人達を歌で元気付けられると勘違いしてるのと全く同じレベルなのである。

悲惨な境遇に置かれている人達にとって、一番必要なもんは何だかんだ言っても金だ。

旅行ついでにボランティアするのも悪くない選択肢だが、それを自分から謳うのはちょっと違う。




「おはようございます………あの~…昨日はすみませんでした」


「あ、おはよう。具合どう?」




5時から宿の前に出るクイッティアオ(ラーメン)の屋台。

そこのバミー(小麦麺のラーメン)を毎朝食べるのが日課のオレ達なのだが、そろそろ注文しようかという所でタケシの彼女が起きてきた。




「はい、大分良くなりました。ありがとうございます」


「そっか、軽い熱中症で済んでよかったね。彼氏はまだ寝てんの?」


「いえ、あの人は先に帰りました」














      ( ̄□ ̄;)!!