(おっ、懐かしいなあ~~♪)
道路沿いにある、旅館やホテルの看板に『青島』という文字がちらつき始める。
オレが小学校の頃、二泊三日の修学旅行は宮崎で、この青島にある鬼の洗濯岩を見るのがメインだったと記憶している。
たまたま信号待ちしている時に気付いたホテルの入口。もうキャンプの季節か。
ま、おぼろげな思い出のある観光名所に行ってみるのも悪くはないが、何しろ今日はまだ泊まる場所さえ決まっていない状態。
時間的には余裕があるものの、やっぱりもう少し先に進んで、休憩がてら宿探しするとしよう。
野球に関しては全く興味が無いどころか、細かいルールさえ良く分かってないオレ。
敢えて好きなジャンルを言うなら昔のプロレスとか格闘技だが、自分の店を持つまでは有名選手とめぐり逢う事なんて全く無かった。
が、不思議なもんで、独立してからも好きなジャンルの有名人は暫く会えなかったのだが、1mmも興味の無いプロ野球選手なんかはちょいちょい顔を出すようになったのである。
また話は脱線するが、一昨年の年末にこんな事があったので紹介しよう。
「しかしまあ、よ~食うなあ~!パチンコで大勝ちでもしたんか?」
秋も深まる去年のある晩。
二週間程前から予約してくれていた、20代後半くらいに見える兄ちゃん二人。
予約電話で話した兄ちゃんは一般的な中肉中背で、爽やか農協青年団の岐阜支部長みたいな感じ。
それに対して、もう一人の兄ちゃんはヒョロヒョロしながらも筋肉質で、その身長は2m近くありそうな大男。
二人は何故だかカウンターの端席を希望して予約をくれたのだが、最初はその意図がオレには全く分からなかった(←というより考えもしなかった)。
冒頭の言葉通り、次から次へと追加注文をする若者二人が心配だったのは、見た目の年齢に対して、ウチの店の客単価では決して安くないだろうと思ったからだ。
「あ、いえ。いつもこれくらいか、もっと食べますよ。期待以上に美味しかったからまだまだいけます!」
そう言ってニコニコしてもらえるのは有難いが、ウチの料理は同じジャンルでやってる他店だと、恐らく1.5から倍以上の代金は取られるはず。
それをこんな若い兄ちゃん達が、金額も気にもせず4人前近く食べている。
もしかしてドバイ在住なのか?オマエ達の親父は。
「トイレお借りしまーす!」
ションベンしに行くのにも一々爽やかな岐阜支部長。
これはあくまでも推測だが、摘みたての紀州水茄子みたいなアソコから朝露が弾け飛ぶみたいな感じで用を足すんだろうな、この青年は…って何言ってんだ、オレ。
「しっかし凄いタッパあるな~、何センチ?」
「……ひゃ……ひゃくきゅうじゅうなな…です」
相方がトイレに行き、独りで伝説の花占い師みたいになっている片方の兄ちゃん。
精悍な顔付きとは裏腹に、消え入りそうな小声と頼りない話し方。
大丈夫なんだろうかコイツは。
もしかして、幼少期飼っていたハムスターに憑依されとるんじゃあるまいな?
「197!?……すっげえなあ~!んじゃやっぱりバスケかバレーかやってたの?」
「い、いえ……やきゅう…れす」
野球…レス………
ディーンフジオカの五代様レスなら常連の妖怪ババアから聞いた事はあるが、君は今の悩みが野球レスなのか?
「野球?野球やってたの?」
「あ、いえ……今もやってます」
「え!?ごめん、そのサイズで野球選手って事は、社会人のチームとかでやってんの!?」
「い、いや、う~ん……一応は仕事として……」
「ふ~ん……じゃあもしかしたら、甲子園にも出たりした事あったりして」
「そ、そうですね……何回か……」
「うえっ!?マジで甲子園出場経験あるん!?いやー、ごめんごめん、冗談で言うたつもりやったんやけどな。オレ野球に詳しくないから許してね。でも、もしその身長でピッチャーやったら、2階から放り投げられる様なもんなんやろうなー……ポジションどこ?」
「…………ピッチャーです」
いかん。
何かどんどんドツボに嵌まってる様な気がするぞ、オレ。
てか、そういやこの兄ちゃん、どっかで見た事のある様な無い様な……
( ゚д゚)ハッ!
「あのー……仕事で野球って、球団どこ?」
「……阪神です」
「もしかして、今ちょっと調子悪い人(←これもどうかと)?」
「あっ…そ、そうっスね……」
ヤベーこの子タイガースの◯浪くんやん!!
どんだけアホな会話しとんねんオレはっっ!!
つづく