「で、あの女性とはどういう関係ですか?」

「…べつに、関係なんて」

「じゃあ、質問を変えましょう。どうして雅紀様の店で働いてるんですか?」

「え…!?なんで知って、」


明らかに動揺している潤を無視して問い詰める。


一応、冷静に。
潤様の執事として。


「あの店で働いてる理由も、あの女性のことも。私には言えないのですか?」

「それは…」

「……わかりました。どうしても言えないのであれば、私は潤様の執事を辞めさせていただきます」

「な、なんで!?」

「隠し事をすると言うことは、信用されてないと言うこと。お仕えするご主人様に信用してもらえないような執事は必要ありませんから」


ソファに座る潤を見下ろし眼鏡を外すと、潤は慌てて立ち上がり俺の腕を掴む。


「ま、待って!翔くん!ちゃんと話すから」


"翔くん"
二人だけの、秘密の呼び方。


「潤様、」

「翔くん…。誰もいない時はその呼び方やめてって言ってるじゃん」

「わかった。じゃあ、潤。ちゃんと説明して」

「…あのね。プレゼント、買いたくて」


潤は腕を掴んだまま、小さく呟いた。


「プレゼント?」

「明日、翔くんの誕生日でしょ。だからプレゼント買うのに…お金が必要で。だから雅紀にお願いしてカフェでバイトさせてもらってた」


ああ、そういえばそんな時期か。
誕生日のことなんてすっかり忘れてた。


「じゃあ、あの女性は?」

「そ、それは…その…、カフェで声掛けられて。俺がバイトしてる理由を話したら、良いバイトがあるよって」

「どんな?」

「……レンタル、彼氏?」

「お前さぁ、」

「ごめん!だって誕生日、明日なのに目標の金額に届かなくて…つい。彼氏のフリして食事するだけって言ってたから」

「食事して、はい、さようなら。なんてそんなわけないだろ。絶対、襲われてたぞ。そもそもバイトなんてしなくてもお金持ってるだろ?」

「持ってるけど…。それは親のお金であって俺のお金じゃないでしょ?だからそのお金でプレゼントを買っても意味がないって言われて」

「誰に?」

「雅紀」


……あいつ、余計なことを。


「翔くんだって、俺が自分で稼いだお金で買ったプレゼントの方が嬉しいでしょ?大事に使ってくれるでしょ?」


潤は子犬のようにうるうると瞳を潤ませて、上目遣いで見上げてくる。


「潤がくれるものはなんだって嬉しいし、大事に使うよ。俺のためにっていうのは嬉しかったけど、レンタル彼氏で稼いだお金は嫌だな」

「それは…、ごめんなさい」


見た目はヤンチャなのに根は真面目で素直で。
そして、不器用。


そんな潤が愛おしくてたまらない。