遠くで声がする。
呼ばれているのかいないのか、判断がつかない。
重い瞼をなんとかこじ開けたものの、やっぱりまだ眠い。
起きるのを拒む頭に従って、俺はもう一度目を閉じた。
特別忙しいわけでもないのに寝不足が続いていて。目を閉じると考えてしまうのは、もちろん松本くんのことだった。
「潤くん、テレビ買ったんだって?翔ちゃんのドラマ見てくれてるの?」
「はい。毎週楽しみにしてます」
「あ、俺も見てるよ!ポンコツ探偵ね!」
「相葉さん、あなたには聞いてません」
「カズ~」
「はい、潤くんの番」
「あ、はい。うーん、じゃあこれ」
「次俺ね~。うわ!マジかー!」
なんか聞き慣れない声が一人混じってるけど、聞こえてくるやり取りにほっとする。
松本くんの声が明るいし。
あの日以降、松本くんは俺と二人きりだと緊張しているのは分かっていた。
仕事から帰ってきたら松本くんがいて。
松本くんの気配を感じながら、ソファでちょっとだけ横になろうとしてたら睡魔に襲われてしまった。
それにしても。
ニノが夜に来るのは聞いてたけど。
まさか相葉さんと一緒に来るなんて、それは聞いてなかったぞ。
いい加減そろそろ起きなきゃと、むくりと起き上がったら、それまで聞こえていた声がぴたりと止んだ。
「あ、翔ちゃん起きた」
「…うるさくて眠れないわ」
「櫻井さん、ごめんなさい…。うるさかったですよね」
「大丈夫だよ、潤くんは謝らなくて。うるさいのは相葉さんだから」
「ひでぇ~。あ、櫻井さんお邪魔してまーす」
おいおい。
一応、俺、あなたの会社のお客様なんだけど。
「…どうも。って、なんで相葉さんが?」
「カズとご飯一緒に食べてて…。櫻井さんとこ行くって言うからついて来ちゃった」
「ふーん。で、なにやってるんです?」
「ババ抜き。櫻井さんもやる?」
……距離感近ぇな。
「やんない」
即答すると、相葉さんがニノと松本くんにひそひそ声で何か言ってる。
それを聞いた松本くんが笑ってて。
だからちょっとだけ、相葉さんに感謝した。
この間、偶然にも食事に誘えたのは俺としてはラッキーだった。
松本くんの何か言いたげな視線に、そろそろ誘ってもいいかな、と思っていた矢先だったから。
あの日のことを松本くんから聞いてくるかは、五分五分だと思っていた。
理由を聞きたいのは、間違いないだろうと思ったから。
聞きたいけど、聞けない。
そんな気配を松本くんから感じて、俺は自分から口を開いた。