水野楼良
陽大を電車の中で見つけ、彼に近づきたいと弓を始める水野は、新保さんとともに花乃をうつす鏡でした。 かつ、髪を短く切ってからの彼女は陽大をうつす存在となっていきます。
「うつすもの」の位置は名前からもうかがえます。
水は水面・、水鏡などそのもので映すものではありますが、名前に楼が存在します。
「楼」は楼閣だと仮定すると。書院建築にみられる楼閣は水面に映した月を観賞するためのものであったりします(桂離宮の月波楼など)。また日本で一番有名?な楼閣「金閣(鹿苑寺舎利殿)」も鏡湖池という池を近接して造られていて、金閣そのものを映し見るために配置されています。楼閣と水面はセットで築造されるのですが、つまり楼閣がついた水の役割はつねに「何かを映すための水面」であるのです。「月を映す水面」があってる気がしますが(このマニアックな知識の何割が解釈として当てはまっているかは疑問ですね…)
生徒会の誰かが蜃気楼と言っていますから、蜃気楼の楼が正解かな…
蜃気楼も反転像の風景が虚像として浮かびあがったりします。反転(男女の反転等)
陽大を思い弓をはじめ、同じ立ち位置に立ったとき陽大に近づけたと感じたのは、花乃か水野か…
そばに行きたいと近くの料理学校に通い、
また弓の名門大学を目指す花乃は十分ひたむきです。
けなげでまっすぐの性格の水野に見る陽大の思いはそのまま花乃の姿なのですが、花乃のけなげさが隠されてしまうのは「腕っぷし」と表される身体能力や「男前」である性格からでしょう、また自分の気持ちに対しての自覚の無さも要因かと思われます。
転じて髪を切ってからの水野は陽大の鏡像、虚像となっていくのですが、その思いの起点は陽大の心が知りたという気持ちからです。
陽大が的前では本来の姿に戻っていると感じていた水野。
陽大が見ているものはなんなのか
「お友達」になっても「彼女」になってもいつまでも見えない陽大の本心。
田路に扉を開けたのも、倭舞まで出かけて行ったのも、全て陽大が何を思っているのかを知るためだったはずです。
勝負の約束とはいえ「お付き合い」をし、何のために弓を教えたのか…
陽大の言葉に「すべては花乃さんのためのお膳立て」と気付きショックを受ける水野。
弓の練習中目線の先にあるものが何なのかが解ったら交際期限がなくなるかもの問いに「それはない」と陽大が返す場面がありますが、陽大の目線の先が「花乃」であることを水野が知った時は別れの時…なので交際期限が無くなることはないのです。
2回のキスは「ありがとう」と「さよなら」だと思いました。
それからの水野に余裕があるのは、陽大が何を考えているか理解したからでしょう。
陽大を理解しその結果失恋になったとしても、今まで何を考えているか解らなかった不安定な状態からは抜け出せたはずです。
それでも失恋した陽大の頼みを引き受け、どんな汚い手を使っても…という気持ちで花乃、雛と共に試合に出ようとする水野に花乃と同じ「男前」な姿を見ます。
元々水野を陽大の代役に立てようと考えたのは雛のはずで、雛は水野を陽大に近づけようと考えていました。弓を教え勝負することを指示し、また自分が絡んでいることを陽大に示唆するように行動します。その考えを見抜き、弓道部を辞めさせて邪魔をしているように見せながら、実はその思惑に乗って水野に弓を教えた陽大は雛の願いのため自発的に動いていると見えるでしょう。
陽大の水野に対する言動に批判もあるようですが、他人の目を含め人の価値観をあまり気にしない水野のような人はあまりこたえていないような気がします。それがそういう風にわざと見せている態度ならなおさら…
陽大という人を作者が語ろうとしたとき、「花乃・水野・雛」の三人の女性が必要だったのだろうなと思いました。