不定期連載小説「超能力少年タケル」 3
僕がまともにあの能力を使ったのは・・・・中学一年の学校の帰り道だった。
当時僕が通っていたのは末吉中学校。僕の成績は平々凡々で、スポーツができるわけでもなく、面白いわけでもない、つまりクラスでも目立たない存在だった。
どこか学校に冷めていて、部活にも入らずクラスでも話すのはがきんちょから友達のケンタくらいだ。
その日も授業をダラダラ寝てやりすごし、ケンタは野球部で忙しいため、この日もいつものように一人で携帯ゲーム機をピコピコやりながら下校した。
そろそろ自宅も近くなってきたころ、ふいに僕は紺色の壁にぶつかって顔を上げた。
「いってえええー!」
それは壁なんかではなく、学生の背中だった。
「おいお前、どこ見て歩いてんだよ!」
タバコをふかした大柄の男がすごい形相で睨み付けてきた。
その男の顔には新入生の僕でも見覚えがあった。・・・馬鹿キヨタだ。
キヨタリョウ・・通称馬鹿キヨタ。学校一の不良で、すぐに暴れだす乱暴者。腕力は強いが偏差値は低いため余計に手に負えない。不良は大抵集団を作るが、キヨタは一匹狼。これは孤独が好きなのではなくて、頭が悪すぎるため誰も慕ってこないのだ。
口癖は「俺を馬鹿にすんじゃねえ!俺はIQ5000あんだぞ!」という世紀末的馬鹿。
最悪だ・・・よりによって、馬鹿キヨタとは・・。
「おい、今ので右手が折れただろうが!どうしてくれるんだよ!」
「すいません。」
「すいませんで済んだら警察いらねえんだよ!」
などという、小学生並みの返しをしながら、僕は胸倉を掴まれた。
「おい、右手が折れただろ。治療費もってこい。」
そして、僕の胸倉を掴んでいるのが右手だと気づいて、いそいで左手に持ち替えた。やはり馬鹿だ。
「おい、財布出せ!」
僕は、理不尽に殴られるのは嫌なので、しぶしぶ財布を出した。キヨタはそれを奪うと中を確認して言った。
「なんだよ、これしかねえのかよ。しけてんな。よし、明日もこの時間にこの場所で待ってるから、金もってこい。わかったな!もしも持ってこなかったらどうなるかわかってんだろうな!」
「どうなるんですか?」
「こうなるんだよ!!」
キヨタは言いながら横にある電柱を思い切り殴った。そして予想以上の痛みに右手を抱えてうずくまった。
「いいか、この右手みたいになりたくなかったら、金持って来いよ!」
血統書つき馬鹿の背中を見送ってから帰宅すると、ベッドに寝転がりため息をついた。
「ふう、ついてないなぁ。どうしたもんか。」
今日は特に被害はなかったが、明日はそうはいかないだろう。遠回りして帰るか?いや、あそこは一本道なので、遠回りしても必ずあそこは通らなくちゃいけない。ケンタと帰るか?一度はいいとして、ケンタも部活があるので何度も張られたら無理だ。変装するか?すぐばれるに決まってる。
「あーあ、いっそのこと女にでもなれたらなぁ。・・・・女!?」
その言葉で、小学三年生のあの体験がフラッシュバックした。
僕はベッドから飛び起きると机の引き出しを引っ張り出し、中にあった古い教科書や点数の低い答案用紙を撒き散らした。すると、引き出しの隅の一番奥にほこりまみれの真っ赤なカプセルがそっと転がっていた。
「あった・・。たしかこれで女の子になれるんだよな・・・?」
僕は両手でカプセルを掴むと力いっぱいひねった。すると中からあかい飴玉が顔を出した。
「賞味期限とか大丈夫だよな?腐ってないよな?」
僕はベッドの端に座るとその飴玉を思い切って口に放り込んだ。・・・うん、甘い・・・腐ってはないみたいだ。
そして、僕はおそるおそる制服の上から股間に手をあててみた。
「ない!!」
今度は上着を脱ぐとシャツの上から胸を触ってみた。
「ある!!」
僕はいそいで部屋を駆け出し、一階に有る洗面所に入ると、着ていた服を全て脱いでみた。
そして、正面の姿見を見てみると、そこには全裸の美少女が立っているではないか!!
「うわああああーーー!!!」
僕はあまりの刺激に鼻血を噴出し、その場に倒れた。頭を打ったショックで、口から泡と飴を吹き出してしまった。
「へっくしょん!!」
どのくらいそうしていたのだろう。僕は全裸のまま、洗面所で気絶していたらしい。幸運なことに両親にはまだみつかっていなかったみたいだ。
それにしても、初めて見る女の裸はすごい!僕はまたすぐに見たくなってしまった。思えば、中学生は性に一番敏感な時期だ。そうなるのも仕方のないことだろう。
洗面所の床を探し、飴玉を見つけた僕は再びそれを口に運んだ。
「ただいまーー。」
母がパートから帰ってきた。うーん、名残惜しいが仕方ない。変身できることは確認できたし、あんまり使うと舐め終わってしまうかもしれないからな。僕は急いで服を着て母を出迎えに行った。
その日の夜は、鏡の中の美少女と馬鹿キヨタの顔が交互に出てきて、なかなか寝付けなかった。
次の日、僕は朝から母のタンスをあさっていた。スカートを探すためである。いくら変身しても、服装が学ランでは変に人目についてしまう。そこで、スカートに履き替えるのだ。
それにしてもババ臭いスカートばっかりだ。これもださい、これは派手すぎる・・。
「タケルー!何やってんのー!遅刻するわよー!」
「すぐ行くー。」
仕方ない、これでいいか。中では一番まともなフリルのついた白いスカートを手に取ると、丸めてカバンの中に突っ込むと、いそいで学校に向かった。
今日の授業も上の空。僕は、自分が凄い能力を持っていると思うと自然と顔がにやけてくる。
そのため、途中何度か先生に注意されてしまったが、それも気にならなかった。
しかし、放課後が近づくとキヨタの顔がちらつく。いや、きっと大丈夫。うまくいく。
終了のチャイムが鳴ると、僕は急いで校門に向かって走り出した。そして、裏の体育倉庫に行くとスカートに履き替え、上着を脱いでカバンに詰め込み、カプセルから飴を取り出すと口に入れた。
一応手鏡で確認。
「か、かわいい・・。」
いや、見とれてる場合じゃない。キヨタにばれないように帰らなくては・・。
ついついがに股になってしまうのを抑えながら、家の前の路地へ。向こうにキヨタが見える。
「大丈夫、ばれない、ばれない。」
心に言い聞かせながらゆっくりとキヨタに近づく。僕に気づいたキヨタは僕のほうをじーっと見ている。横を通り過ぎた。大丈夫、視線は感じるけど、気づいてない。
無事通り過ぎた僕は、そそくさと玄関に入り込んだ。セーフ!やはり、この飴すげえ!僕はホッと安堵のため息をついてから飴を取り出そうとした。
「あら、どなた?」
母が急に居間から顔を出した。なんで今日に限っているんだよ!パートは休みか?
どうしよう、ごまかさねば!
「あ、あはは・・初めまして。私、タケル君とお付き合いさせていただいてます。タケミっていいます。タケル君に借りていたノートを返しに寄ったんですが、すいませんずうずうしく入ってしまって。」
「あら、こんなかわいい子、タケルも隅におけないわね。さあ、どうぞ、あがって。タケルももうすぐ帰ってくるだろうし・・・あら、そのスカート、可愛いわね!いいセンスしてる!」
「いえ、すぐ帰りますんで。」
「そう?また遊びにいらっしゃいね。」
「おじゃましました。」
びっくりしたぁ。思わず、彼女だなんて言ってしまった。それはそうと、早く変身とかねば。僕は玄関を出ると飴を取ろうとした。
ん?・・・なにやら視線を感じる。僕は尋常じゃない視線を感じてその方向に目をやった。その視線の先にいたのは・・キヨタだった。なにやら様子を伺っている。心なしか、頬が赤い。
こりゃ、変身とくわけにはいかないな・・・。
僕は仕方なく自分の家の居間で母にお茶菓子を進められる羽目になってしまった。母がトイレに行った隙に変身をといて
「あ、なんか用事があってさき帰ったよ。」
などとごまかしたりして、なんとか事なきをえたが、こんなエピソードなど、これから起こる事件のほんのプロローグに過ぎなかった。
そのとんでもない事件とは・・・・・・
つづく
はあ、なんとか書きました。昨日はここまで書いてデータが全て消えたから、かなり泣いたけど気を取り直して頑張りました。
さて、タケル中学編もいよいよ進みだしたわけですが、この先どうなるのか?そのタケルの運命を握っているのは皆さんです!
ぜひとも「そのとんでもない事件とは・・」につづく一文を考えてくださいませ。
皆さんの書き込み、大変楽しく、また参考にしながら読ませていただいてます。
これからも、よろしくお願いしますね!